「自 由 吟」              森下 居久美

飯茶碗割れて止まないすきま風          掛 川

意地っ張り無言でつつくキムチ鍋

立春に仕切り直している誓い

ホーホケキョ行きつ戻りつ春が来る

 

 

「乾燥注意報」             毛利  由美

顔がひび割れる乾燥注意報           つくば

中古車フェアみなウチのより新しい

無敵だと思う大阪のおばちゃん

老眼は隠せぬアンチエイジング

 

 

「約  束」               濱山  哲也

病室でできぬ指切りするピエロ            つがる

約束が一番好きなのは詐欺師

その昔ぼくのメロスは来なかった

子どもとの約束だから命がけ

 

 

「自 由 吟」               滝田  玲子

匙曲げた地球のくしゃみ止まらない        浜 松

物あふれ断捨離出来ぬ兎小屋

核心に触れてアンテナ武者震い

秋とばし駆け足師走突っ走る

 

 

「世話好き」                   石田  竹水

鈍行の旅も終着駅同じ                   静 岡

世話好きな高野豆腐の意見聞く

神さまの都合も聞いて病みました

皮肉などざく切りにして突く鍋

 

 

「長生きもいいね」                増田  久子

書き換えて多分最後のパスポート             焼 津

ジャンボくじ当るまで生き抜いてやる

古希からのバイエル四年越しで終え

長生きはしたいが年を取るはイヤ

 

 

「春 の 音」              小林 ふく子

冬の色使い果たして日が暮れる         袋 井

結び目を少し弛めて春を待つ

微熱出て春の気配を感じてる

遠くから春の着信音がする

 

 

「福 寿 草」             斉尾 くにこ

密やかに冬の一日とろけてる               鳥 取

陽に溶けぬ日陰の雪の意地っ張り

泥付きの踏まれた雪が人の色

雪に芽を出すしあわせの福寿草

 

 

「所詮私は…」            鈴木 千代見

美しく咲いた造花に嫉妬する          浜 松

誰にでもしっぽを振ってついてゆく

大海を知ることもない金魚です

やさしい心だけではいつも損をする

 

 

「八人目の敵」            杉山  太郎

ケータイの電波の先にあるもしも         横 浜

便利さの裏の不便も買ってくる

万一の万が百まで落ちている

地震かも知れないそれが八人目

 

 

「金曜の夜」              松橋  帆波

恋終わる海の香りがする風に           東 京

身構えています恋愛運の日は

閉じてまた開ける新着メールなし

金曜の夜は圏外です かしこ

 

 

「自 由 吟」              奥宮  恒代

正直で損をしている人愛す            森 町

見つめあい十五に戻るクラス会

余命表逢っておきたい人あまた

笑っちゃうあんぽんたんと叱られて

 

 

「おにはそと」             横田 輪加造

午後九時へ山積みのまま恵方巻          東 京

黙々と北北西は見つめられ

鬼の面かぶり元気なおにはそと

豆まきへ集合住宅の事情

 

 

「自 由 吟」                戸田 美佐緒

背信の林檎の皮を薄く剥く             さいたま

悪党になるまで小指離さない

吃音がどっさりたまる貯金箱

柔らかな人差し指に油断する

 

 

「自 由 吟」              南   天子

肩書きを昔すてたが木枯しが                焼 津

現代もどじょう泥田がマイホーム

あっさりと割り切りながら歩くだけ

夢ばかり追ったら息が続かない

 

 

「クラス会」              井口   薫

はじめましてと切り出しちゃった五十年      袋 井

缶蹴りの仲間に戻るクラス会

また逝った野球の彼もひまわりも

今だから今しか言えぬクラス会

 

 

「  旗  」               馬渕 よし子

白旗を掲げて呼吸楽になり              浜 松

赤旗の向こうに好きな人がいる

人生の節目へ父の旗印

応援の旗が虚しい帰り道

 

 

「雪  女」               真田  義子

雪が好き私はきっと雪女               仙 台

冬に咲くバラにもらった夢ひとつ

温室のトマトはなぜか笑わない

二十五時静かに今日の栞置く

 

 

「春 隣 り」             新貝 里々子

春隣りレッグウォーマーはピンク              袋 井

叩かれて短く終わる春の蝿

タンゴポジション昔の恋の位置に立つ

春キャベツザクザク美女になるつもり

 

 

「受験の子」              岡村  廣司

ただ祈るだけしか出来ぬ子の受験        焼 津

鳥居にも手を合わせてる受験の子

お賽銭の額は家計簿にはつけぬ

受験の子がんばれ母も起きている

 

 

「近  況」               川口   亘

言葉尻行きつく先を見失い             藤 枝

疑心など持っていないが金もない

真っ当に生きた證もつい忘れ

最早など云う手もないが危ぶまれ

 

 

「雑  詠」                 成島  静枝

薀蓄は言わないキリン楽しそう              千 葉

猫だって美容のために水を飲み

噂好き人差し指を呼ぶスマホ

バスルームケラケラ笑う鏡見ぬ

 

 

「歳  月」                    鈴木 まつ子

光陰を惜しみ嫁しては五十年               島 田

振り返り思慕失ったものの色

戦後史を語り大樹となって老い

生きてゆく支えになった趣味一途

 

 

「自 由 吟」              石上  俊枝

他人さま人の懐数えすぎ             静 岡

わかってる風船に針刺しにくる

今やろう思ったら矢が飛んでくる

一筋で生真面目すぎた太い指

 

 

「自 由 吟」              提坂 まさえ

スカイツリー青空ひょいとつまみ上げ       静 岡

すごろくにカルタ時々誰か泣き

失くすものないなあなんて旅に発つ

雪女コタツがいいと長居する

 

 

「柳川人気」              萩原 まさ子

二匹目のどじょうを探すTPP          静 岡

泥くさく集団疎開の縄のれん

空気読み新聞持って席を立つ

柳川の人気総理と共に消え

 

 

「雑  詠」              宮浦 勝登志

クラス会大判五枚さらり置き           静 岡

立つ時につい口もらすどっこいしょ

立っていれば親も使えと子の意見

国難に泥からどじょう顔を出せ

 

 

「自 由 吟」              川村 美智代

コマーシャル程度肩もみ美容院           静 岡

立つ座るどっこいしょーの応援歌

夢を建つ家族ゲームのゴング鳴る

どじょう鍋甘い辛いと愚痴が出る

 

 

「どじょう」              安藤 千鶴子

食べログを信じサクラに遊ばれる          静 岡

清くなる浪花にどじょう住めなそう

高すぎて柳川なべも食えません

被災地の野良犬どじょう食べてるか

 

 

「鍋4部作」              森 だがやん

今夜鍋?クレーム入り帰れない          島 田

鍋囲む家族団欒パパいずこ

パパ帰宅一人でつつく残り鍋

鍋底に小さいカキみぃ~つけた~

 

 

「夜勤明けの思い出」          恩田 たかし

夜勤明けラジオパークへ行きました        静 岡

夜勤明けこずえレシピを買い求め

夜勤明け寝ながらラジオ聞いて寝る

夜勤明け何故か会議が重なる日

 

 

「自 由 吟」              鈴木 恵美子

赤い芽がほっこり愛のささやきか        静 岡

踏まれても芽吹く野草の気をもらう

大寒の朝も変らぬウォーキング

極寒の霊峰富士が朝焼ける

 

 

「自 由 吟」              安田  豊子

穏やかな女にもあった照れ笑い         浜 松

大安も仏滅もない日向ぼこ

格言通り成らぬひとりの掛け暦

西陽さす部屋でひとりの夢芝居

 

 

「  雪  」              深澤 ひろむ

つけ睫に優しく憩う雪の精            甲 府

傘一本妻へ差し出すぼたん雪

雪解けの気配が見える嫁姑

貰い風呂森の石松外は雪

 

 

「宿  題」              畔柳  晴康

宿題を気にはすれども明日にする        浜 松

チョット見て見てではなくて教えてよ

宿題を前に居眠り冬炬燵

やれやれと宿題終えてティータイム

 

 

「海苔巻き」                 大塚  徳子

先走る口にマスクをして生きる            仙 台

我が姿おうなの内に花を盛る

シーベルトさけて通れぬ際に住む

海苔巻きに幸をいっぱい巻いている

 

 

「雑  詠」                  内山  敏子

新しきページへ八十の一行詩           浜 松

ゼロになり誠の愛が見えて来る

新家庭2DKを城とする

やきもちもこんがり焼ける新家庭

 

 

「誇  る」                  薗田  獏沓

細腕の誇れる店の客の列           川根本町

誘惑に負けてやるのも誇りです

言わずとも僕の誇りは胸にあり

母として誇りに思う学生服

 

 

「自 由 吟」                        川口 のぶ子

節分に日本列島氷詰                藤 枝

凍結に思わずカモの足すべる

風花が舞って思わず首すくめ

連日の寒さきびしく出を拒む

 

 

「雑  詠」              山本 野次馬

宇宙基地国境線が見えますか           函 南

七色を描き続けるシャボン玉

プラマイゼロで終わってしまう非凡

日溜まりへ桜をひとつ産み落とす

 

 

「走  る」              酒井  可福

走っても走ってもまだついてくる         北九州

人生の逆走したい歳になる

時の星テールランプが走り去る

流行と共に走って波に消え

 

 

「自 由 吟」               鹿野  太郎

空回りしても師の辞書また捲る            仙 台

看護婦が誉めると金になる薬

嘱託という歯車もあればこそ

ふた色を重ねて明日勝負する

 

 

「介護保険」               中矢  長仁

車いすに乗った達磨で介護4             松 山

手術して支援1です試歩の杖

ケアサービス保険利用でお出迎え

確定申告取られた税を取り返す

 

 

「雑  詠」              村越  精也

わしゃ乗らぬモミジマークの送迎車        静 岡

最初名でそしてとうさんおじいさん

燃費よし但しメタボは想定外

健啖家年金からは小食家

 

 

「自 由 吟」              飯塚 すみと

だるま市今年に懸ける露天商               静 岡

飽きた頃雑煮の蓋をあけて見る

移り気なおんな群がる福袋

コーラス日女性に負けじと北の春

 

 

「自 転 車」              山田  浩則

ドライバー自転車飲酒運転免許没収          島 田

自転車の暴走族の取り締まり

自転車の車道が狭い田舎道

小学生の時は自転車免許証

 

 

「昨  日」              中野 三根子

昨日からけんかしていたはずなのに        静 岡

あらいやだ昨日と同じ服を着て

昨日からクシャミが出るわ風邪かしら

忘れてる昨夜のおかず何だった

 

 

「しゃぼん玉」                   尾崎  好子

苦労じわ眉間のしわも消して逝く               藤 枝

大寒へ二間続きが尚寒い

七七日私も生きて修行する

人生は飛ばし続けたしゃぼん玉

 

 

「送 る 風」              池田  茂瑠

胸の中誤算を溜めた部屋がある          静 岡

あなたまで風を黒髪から送る

迷います未練の森が深すぎて

行間に匂わぬように毒を塗る

 

 

「オクターブ」                  佐野 由利子

ゆっくりと五臓六腑を湯に浸す               静 岡

オクターブ上げて意見を主張する

寒波来るらしい傷口疼きだす

ゼッケンが大きい顔でゴールイン

 

 

「自 由 吟」                    増田  信一

口車乗った振りして聞く本音                焼 津

偶にくる息子のメール金送れ

延々と隣同士でするメール

復興で見せろ日本の底力

 

 

「  嫁  」              川村  洋未

嫁の留守地雷を仕掛けお楽しみ          静 岡

嫁といて病気もできずたくましく

ウォーキング嫁の隣を三十分

食べたいな嫁の手作り朝のパン

 

 

「これからが寒い」           永田 のぶ男

鈍感な力がついて世を渡る                 静 岡

早咲きを急ぐ本音が聞けぬまま

静かなる言葉で辛い事を言う

仏壇の花を値切ったお婿さん

 

 

「憂  愁」              長澤 アキラ

自画像の奥に本当の顔がある           静 岡

運命の悪戯を聞く木守り柿

酔ったっていいよと酒が腑に落ちる

楽しくもない浮世でも笑わねば

 

 

「自 由 吟」                     薮﨑 千恵子

ぶち当たる壁に逆立ちしたくなる         焼 津

アルバムに青春が色褪せてくる

だんだんと本音になってくるジョーク

あっさりの二つ返事に芯が無い

 

 

「自 由 吟」              稲森 ユタカ

サヨナラの一言告げてはい終わり         静 岡

長年の苦労一つのミスで消え

健康を気遣う嫁の塩加減

歳のせいあっさり味が濃く感じ

 

 

「貝  塚」              山口  兄六

母さんの貝塚いつも小さいね            足 利

北風がピイと鳴く夜のボロ毛布

まる鍋を食べたかと問う籠の亀

待ち合わせ場所に彷徨う寒立馬

 

 

「お 休 み」              荒牧 やむ茶

青空へにっこり笑うズル休み           小 山

髪の毛も浮かれて踊る日曜日

お見舞いに行って貰った流行風邪

充電器に鎮座している日曜日

 

 

「大  胆」              多田  幹江

ルノアールが泣く風呂上りの熟女         静 岡

年輪が浮く素っぴんを押し通す

猫だってメスは内股です あなた

肝っ玉三杯目からでかくなる

 

 

「大阪ソウル」               谷口 さとみ

ワイやワイ ハワイで歯ぁが欠けたんや        伊 豆

ヒョウ柄やないでぇトラや虎でっせ

も要らんの?ほんならうちがつこたげる

たいそうなことやないけどガンやねん

 

 

「そこにある月」               松田  夕介

良いお酒月でうさぎと鬼ごっこ               静 岡

月影とキミ浮かべ呑む純米酒

朝帰りまだ遊びたいまるい月

月の声砂漠を癒すお疲れと

 

 

「春色の嘘」              真理  猫子

未練たらたら沈む夕陽の忘れもの         岡 崎

口元に移転しました泣きぼくろ

春色の嘘が立派に咲きました

じいちゃんと同じ匂いの砂煙

 

 

「加  齢」              林  二三子

シルバーシート年に不足はなく座る        富士宮

立ち上がるたびにヨイショが口をつく

聴診器当てもしないで年ですねぇ

聞き流す事もすんなり出来る年

 

 

「  声  」               勝又  恭子

一歩踏み出す出すため声に出してみる       三 島

日記帳開いて母の声を聞く

春色の声が溢れる電話口

春を待つ庭の木の芽に声かける

 

 

「絵  画」               望月   弘

さわやかな空は水彩画で描く           静 岡

情熱は真っ赤に油彩画が似合う

霧深き山は薄墨から生れ

クレヨンは燦燦として笑みかける

 

 

「山  菜」              加藤   鰹

摘まなけりゃ尖る 子の芽もタラの芽も       静 岡

ふきのとう 芽生えた愛がほろ苦い

コシアブラ 何だかセクシーな名前

竹の子にアラメ 僕には君がいる

 

 

顧  問  吟

「生 き る」                  高瀬  輝男

頼み事少し人間見られたな             焼 津

ハッピーエンドやっぱり金が鍵握る

生きのびる策に人情などは無い

欲望はなお捨て切れぬ骨と皮