霜石コンフィデンシャル109   高 瀬 霜 石

「古 今 東 西 裏 表」

東京と大阪で違うのは、なにもエスカレーターの立ち位置だけではない。有名なのはウナギだ。
江戸食物事典なんかによると、ウナギは当初、筒切りにしたのを串に刺し、囲炉裏であぶったのに粗塩を振って、横ぐわえに齧ったらしい。これがガマ(蒲)の穂に似ていたから「蒲焼き」と呼んだのだそうだ。これ、聞いただけでも、いかにもマズそう。
後に、裂いて開いた身に、串を数本打って、タレを塗りながら焼く方式(筏【いかだ】焼き)―早い話が、切り身魚の付け焼き方式―を取り入れてから、ようやくウナギはうまいモノの仲間入りを果たした。
そのうちに「筏焼き」も「蒲焼き」もゴッチャ混ぜになり「蒲焼き」が生き残ったという説と、香ばしく樺色に焼き上げるからそう呼んだという説もある。
江戸は背開き。江戸は武士の町。腹を裂くのは切腹を思わせて縁起が悪いから、背開きにするのだとも。
裂いてから、白焼きして、その後、蒸して脂を抜き、それからふっくらと焼き上げるのが江戸風。
上方(大阪)では、腹開きして、地焼きといって蒸さず、そのまんまこんがり焼き上げる。香ばしい。
「ウナギは、どうしてウナギっていうんですか?」
「アレは昔、ヌルヌルといったなあ。ヌルヌルを鵜が呑み込もうとしたが、なかなか呑み込めない。鵜が難儀したので、ウ・ナンギ。それでウナギになった」
「へえー。じゃあ蒲焼きはどうして蒲焼きですか?」
「あれか。バカでも焼けるから蒲焼きじゃな」
「えっ?でも、バカとカバじゃあひっくり返ってる」
「バカだなあ。ひっくり返さなきゃ焦げるだろうが」
題は忘れたが、なんかの落語のワンシーンだ。
江戸のあっさりと、上方のこってりと、さて、あなたはどちらがお好みですかな。
今、ウナギは大変なことになっている。稚魚(シラスウナギ)が、3年連続の不漁で絶滅の危機なのだそうだ。ウナギ資源は危機的状況にあるとの研究者らの声は高まっていたが、国による資源の調査や管理などはほとんど行われず、保護策は皆無に等しいという。
「アレは昔、ウナギといったなあ。今はマボ。元々ご馳走ではあったが、土用の丑の日なんぞは、庶民がこぞって食ったものだ。それが今は、チョー金持ちの口にしか入らない。どうしてマボ?幻のマボだよ」

 

2012年5月号