「自 由 吟」 真田 義子
思い切って電話しようか冬銀河 仙 台
地図にない道で見つけた冬の蝶
ケセラセラ開けてしまおう玉手箱
プライドが邪魔で転んでばかりいる
「雑 詠」 井口 薫
面取りをしました誤解されぬよう 袋 井
この先の景色カタログから探す
叱られた人に逢いたくなる齢
本当は好きと言えない通せんぼ
「ビミョー」 毛利 由美
腰痛をリセットできぬまま年始 つくば
酒タバコ麻雀覚え子が帰省
お節よりお雑煮好きな成長期
小吉にビミョーと語る受験生
「 雪 」 濱山 哲也
かまくらもダルマも消えた過疎の村 つがる
雪の日はオールディーズを聴いている
職安に大きな氷柱下がってる
友が来る雪にビールを挿しておく
「ため息吐息」 新貝 里々子
億というお金は無いが母である 袋 井
朝寝坊しても起きればお正月
お年玉だけが目当ての孫が来る
物忘れ忘れ上手で生きてゆく
「背 骨」 加茂 和枝
横車押されて強くなる背骨 岩 沼
咲くための我慢があった雪の下
痛み止めあなたもそっと飲んでいる
霜柱サクッと冬が寒くても
「鍾 乳 石」 松橋 帆波
医者の言う通りを仕事許さない 東 京
ボケたかなぁ診察券をレジで出し
医者の言う運動をして怪我をする
CTに僕の鍾乳石写る
「ファミリー」 鹿野 太郎
スリッパがスリッパを追う夜の廊下 仙 台
お赤飯こさえて娘里帰り
厨から割り込んでくる事情通
哀愁の帯びた物腰には弱い
「内 情」 増田 久子
デパートで見てスーパーでお買い上げ 焼 津
ジパングの元を取る気の旅もある
アナログで も一度年を越すつもり
家計簿は引き算ソロバンで足りる
「自 由 吟」 近藤 伊佐久
外出の多い女房に落ちつかず 静 岡
達筆の賀状家中廻し読み
どう見ても他人では無い二人づれ
帯ぽんと叩いて送る初舞台
「初 夢」 成島 静枝
初夢に見たい息子の披露宴 千 葉
ランドセル孫には孫の好きな色
スタンプで埋め尽くしたいパスポート
平凡で元気な今が続く夢
「自 由 吟」 村越 精也
我が干支も六回目では皺の虎 静 岡
初詣まだ夢はある宝くじ
家仕分け年金有りで消されずに
マージャン店防火違反はチョンボなり
「時雨の季」 小林 ふく子
カルチャーに正月疲れなど不要 袋 井
三叉路でいつも心が寒くなる
冬の裂け目に一筋の陽の光り
灰色に薄陽こぼして時雨の季
「な さ け」 鈴木 恵美子
人情が消えてしまった都市砂漠 静 岡
脇役の情けが主役食っている
座禅組む亡夫の傍にいる安堵
たとう紙に包んで母をいとおしむ
「自 由 吟」 内山 敏子
へそくりがふくらんでゆく妻の知恵 浜 松
かくれんぼ諭吉みつけた妻の勝ち
ストレスも抜いて下さい換気扇
一本の杖を頼りに八十の坂
「うたかた」 石井 昇
シナリオと違う展開魚が跳ね 蓮 田
うたかたや未練が独り歩きする
流浪する草鞋泣いたり笑ったり
山頭火流れていても背は立て
「うっとり」 鈴木 千代見
じわじわと昇る初日に吸い込まれ 浜 松
ふたありの世界へそっとしておこう
宝石へ女の心奪われる
ほろ酔いの頃だ話を切り出そう
「雑 詠」 滝田 玲子
アンテナを高くして聞く老いの愚痴 浜 松
昭和史に見る団塊の息づかい
人生の後半急がず亀でゆく
ウォーキングため息ついてさする腰
「処 世 術」 岡村 廣司
程々と言う枠でいい処世術 焼 津
ひと呼吸置いて耐えてた処世術
莫迦になれ母が教えた処世術
躓きも上手に生かす処世術
「うわばみ」 中矢 長仁
モットーはご馳走食べて昼寝する 松 山
大酒は前世うわばみだったのか
嬉しいな割り勘にして倍食べる
寝正月時々起きてお屠蘇飲む
「やれやれ」 川村 美智代
やれやれと一日という旅終わる 静 岡
おかえりとこれで全員無事帰る
鍵かけず田舎育ちの悪い癖
セールスにいい顔をする悪い癖
「洒 落」 薗田 獏沓
香水が嫌味にならぬ貴賓席 川根本町
さり気なく着て振り向かすハイセンス
脳みそを耕す辞書と紅いシャツ
面接の洒落将来を見込まれる
「自 由 吟」 寺脇 龍狂
両雄並び立たずは生きている 浜 松
八十も敬老会に気がひける
煙草より酒税上げたら事故も減る
経済の衰退救う縄のれん
「色 々」 酒井 可福
銀しゃりが夢に出てきた少年期 北九州
金婚を迎える父も燻し銀
灰色の政治に白も黒もない
白寿には後一年の欲が出る
「 時 」 山本 野次馬
渋柿は時を待たずに落ちて行く 函 南
太陽の勝手眠りつくには早過ぎる
金太郎飴のように時を切り刻む
退職日こんなに長い二十四時
「 枝 」 芹沢 穂々美
枝豆はどうあがいても丸いまま 沼 津
モクセイの枝に笑いの薬混ぜ
太い幹枝葉が伸びて第二章
小枝まで庭師の鋏ほめている
「雑 詠」 西垣 博司
発送は屑籠でした招待状 静 岡
老いて尚気にかけている花言葉
寅の字を虎と書かない占い師
トラ刈りでバレンタインのチョコが増え
「日向ぼこ」 安田 豊子
ひとり居て郷愁巡る日向ぼこ 浜 松
小春日和こんな幸せ想う今
日向ぼこ眠気ふっ飛ぶいい噂
紅葉へ子等の歓喜も朱に染まる
「初 詣」 瀧 進
柏手に溢れこぼれる願い事 島 田
初詣願い飛び交う御賽銭
健やかな妻に引かれて初薬師
息災の願いも子から孫になり
「年ともに」 鈴木 まつ子
路地裏でうたう替え歌縄のれん 島 田
年ともに夢もだんだん褪せてくる
忘れたと言いあいまいに暈される
新年を撞き出すごとく活を入れ
「新 年」 川口 亘
老化た気は捨てて曽孫に媚を売り 藤 枝
泣いたのを笑顔に変えて呉れたよね
身を捨てて浮かぶ瀬を詠む夜半の月
決行の暁に見るひざ栗毛
「余 裕」 山口 兄六
犬に餌あげて二度寝をする余裕 足 利
よく歩く足が並んでいる湯船
ケータイを片手に片手間な時間
肉体が休むと寂しがる思考
「平 穏」 真 理 猫 子
自転車のカゴの枯葉と二人乗り 岡 崎
飲みさしの番茶を持って年を越す
初雪か頭が白くなってゆく
食パンの耳が聞いてるひとりごと
「寅 年」 増田 信一
寅年の妻の尾を踏み家出する 焼 津
寅年がいくら吼えても平は平
寅年が今では野菜主義になり
寅と寅一緒になって今は猫
「春 近 し」 森下 居久美
球根を植えよう春が近いから 掛 川
春風に舞って迷惑な天使
似合わなくなったジーパン捨てて春
新しい扉 向こうはきっと春
「元気かなぁ…?」 今井 卓まる
友情の影を西日を濃く映す 浜 松
涙目で谷中ショウガに本音吐く
秀逸な航路を渡る処世術
朗らかな空が嫌味な検診日
「ま く」 川村 洋未
メールには不幸の種もまかれてる 静 岡
忘れそうと言って責任ばらまいた
反省の種はまくけどそれっきり
いい男ぶって優しさばらまいて
「七 色」 池田 茂瑠
美しい余生一日づつ織ろう 静 岡
炎濃くしてます夏のあの夜から
色七つ揃えて愛を深くする
囲いなど父の立場の四季にない
「ゆっくり」 中田 尚
ゆっくりと笑って生きてどっこいしょ 浜 松
ロボットに掃除任せて昼寝する
これからはゆっくりで良い手をつなぐ
牛歩して道草もして一度きり
「露天風呂」 中野 三根子
露天風呂日の出も富士も一人占め 静 岡
夜の海キラキラ光る星ばかり
雪見酒あったら良いな露天風呂
混浴もイケメンばかりいたらなぁ
「丸 い 鼻」 佐野 由利子
振袖もGパンも行く法多山 静 岡
母元気 九度目の寅を迎え撃つ
深々とソファーに沈みミルクチョコ
丸い鼻可愛いなんて言わないで
「再 出 発」 山下 和一
真白な下着に替えて旅に出る 伊豆の国
幸せの扉を開けるおまじない
建前を粉々にして紙吹雪
原点は遊び心と麦ご飯
「乾 杯」 石田 竹水
温度差もあって夫婦のヨイトマケ 静 岡
ポイントはずれても愉快ふたり旅
ありったけ楽しくさせる福笑い
乾杯に温い絆の花が咲く
「自 由 吟」 高瀬 輝男
都市化して人間臭さ消えた里 焼 津
人間の証し交際輪を広げ
突如鳩に横取りされた蟻の餌
近道を許さぬ気だな俄か雨
「春 近 し」 望月 弘
春はもうタップダンスの準備する 静 岡
当たるかもしれぬ神話へ並ぶくじ
エンピツが甲で消しゴム乙になる
袖出しでスタンバイする誉め言葉
「酒ほろろ」 加藤 鰹
肉じゃがによく合うお世辞抜きの酒 静 岡
タコハイを貧乏神と酌み交わす
酒ほろろ還らぬ人のイリュージョン
宝くじ外れ シメサバには当たり
顧 問 吟
「新春雑感」 柳沢 平四朗
痩せこけた寅へ初心が座りこむ 静 岡
マニフェスト数字のゴミを病んでいる
旗色で変る浮世の評論家
パソコンの証す非情が許せない