「 底 」 勝又 恭子
上げ底に浮かれた心見破られ 三 島
どん底はあそこだったと今わかる
もうダメと思ってからの底力
ごほうびの大根鍋の底にある
「自 由 吟」 酒井 可福
娘の涙ピント外れに堰を切る 北九州
小細工が誠も嘘もかき混ぜる
誤差の無い魔術の様な匠技
読み返す手紙に誤字の多い事
「 夏 」 濱山 哲也
ビーチバレー誘われ二つ返事する つがる
幽霊も所詮アナログだってこと
境内の蝉も代々世襲制
夏休み男児ボーイに羽化をする
「あじさいの彩」 鈴木 千代見
あじさいの白は寡黙な女たち 浜 松
あじさいの薄紫は二度逢わぬ
あじさいの女心に赤を足す
青のあじさい未熟のままに大人びる
「粗 忽」 薗田 獏沓
電源を入れず故障と騒ぎたて 川根本町
熨斗袋空だと係追って来る
早とちり内示に転居先を決め
スリッパをチェックアウトで注意され
「自 由 吟」 川口 亘
着き次第返事寄こせは親のエゴ 藤 枝
築山の有る家に住むこれは夢
継ぎ足してあとを支える苦労負い
やっとこせ越すに骨折る月がわり
「奈良の旅」 井口 薫
薬師寺の軽くて重い説話聴く 袋 井
修学旅行の子等へダブらす遠い日々
寺巡り私を軽くして家路
二万歩をみやげに次の旅プラン
「煙 草」 松橋 帆波
1ミリを吸っても同じ税らしい 東 京
煙草より高いビタミンCを摂る
労働の後の煙草が美味すぎる
たばこ吸うおんなとケーキ食べに行く
「楽 し み」 安田 豊子
七転び何か拾ってまた転ぶ 浜 松
会う人ができて楽しい犬散歩
一期一会渡るこの世もいいもんだ
人情に触れて明るい毬になる
「外 も 雨」 新貝 里々子
幸せの型 不等辺三角形 袋 井
トレーナーすっかり馴染むノーメイク
さっきまでたしかにあったボールペン
酸欠の金魚となりぬ外も雨
「自 由 吟」 成島 静枝
指折って平均寿命追いかける 千 葉
朝ドラは見ない話の輪から洩れ
水溜りこの頃虹を見ていない
町内のお局ヨイショに慣れている
「 動 」 鈴木 恵美子
雑草と根気くらべの庭仕事 静 岡
働いた汗ビールの泡とこだまする
リーダーが変わると空気動き出す
海に山に翔んでみたいな車椅子
「花 ば な」 小林 ふく子
ラベンダー畑に心さらわれる 袋 井
ドクダミの匂いが好きな頑張り屋
蓮の花わたしも楽になれるのか
大輪のひまわりが知る首の凝り
「五 十 年」 大塚 徳子
ドングリの森であしたに背伸びする 仙 台
星月夜呟き帰る影法師
嫌なことシンクに流す明日は晴れ
五十年あなたと写る煤け色
「投げキッス」 斉尾 くにこ
自戒する心が悲鳴あげている 鳥 取
痛烈な一撃だった冴えだった
舐めて舐めて野良は自分で傷癒す
味方なし離れ孤島で投げキッス
「自 由 吟」 滝田 玲子
脇役の演技で伸ばす視聴率 浜 松
愚痴る汗ゴーヤの蔓にからみつく
節電の対策にないコルセット
二十四時赤いポストもよく眠る
「ぎくしゃく」 鈴木 まつ子
二股へ未練たっぷり上下する 島 田
語尾不明へりくつだけを並べ立て
大物が遅刻人格まで斬られ
ぎくしゃくとした仲終り意識する
「雑 詠」 山本 野次馬
あといち羽折らずにすんだ平和論 函 南
梅の実が毒だと誰も知らぬわけ
心臓が止まるくらいの嘘をつく
盆栽の枝に人生問いかける
「雑 詠」 川口 のぶ子
棒かしの繁み刈り込み汗流す 藤 枝
立ち枯れの根を掘り起こす力こぶ
ゴーヤ苗今年こそはと念入りに
土おこす力も萎えて情けない
「雑 詠」 鹿野 太郎
家族のハミングに撫でられる火傷 仙 台
満更でもない町内の絆創膏
ささやかな花です家の為に咲く
なんか変癖になりそう下野の風
「夏 間 近」 恩田 たかし
人気者猫の昼寝は落ち着かず 静 岡
雨降りにこころの洗濯香りつき
まるかじりトマト一個の夏が来る
梅雨の時期臭うカッパで気が滅入る
「下 町」 藤田 武人
植木鉢割れてじじいに叱られた 大 阪
店先でソロバン弾きまけといて
路地裏でキャッチボールをする親子
凸凹の道でビー玉時忘れ
「下五しりとり」 中矢 長仁
珍しいカラマンダリンミカンの名 松 山
ミカンの名目先を変えてカタカナに
カタカナに侵されているニッポン語
ニッポン語カタカナ増えて退化する
「自 由 吟」 内山 敏子
心と心手話でふれ合う昼さがり 浜 松
家計簿の顔色変わる使いすぎ
友情の思い出尽きぬ夢の中
咄家の話芸に酔った小半日
「自 由 吟」 飯塚 すみと
表紙の絵神経つかい街に出る 静 岡
日中韓先の見えない北の空
歯ミガキのデザイン替えてふんぎりに
点取り屋ゴール決めれば娘は騒ぐ
「友 人」 畔柳 晴康
腹割った友の意見で覚悟決め 浜 松
貧富なし気心だけの無二の友
この苦労分けて助けて笑む仲間
震災の友に気を掛けこの一年
「自 由 吟」 南 天子
悪口は風と一緒について吹く 焼 津
毒舌を吐いた記憶はまるでなし
我欲なし真心だけで生きて来た
次の世に期待してます笑うけど
「自 由 吟」 村越 精也
古希すぎてAKB見て蠢めいて 静 岡
年金者金環を見せ祝とする
乞う来店流し電話で誰が行く
機嫌悪妻が口笛吹いている
「自 由 吟」 菅原 花子
念願の雅名が決まり句はできず 盛 岡
野良猫を眺めているとほっとする
黒いもの花を咲かせて期待する
韓ドラを笑いこらえて見る私
「自 由 句」 山田 浩則
大都会スカイツリー渋滞中 島 田
日曜日父さん下手な大工さん
六月だ梅雨の前にと大掃除
電車待つ傘でゴルフの素振りする
「昭和二桁の初頭」 尾崎 好子
舅とか姑苦労した世代 藤 枝
長男の嫁は親看て当り前
或るものが有ればスープの冷めぬ距離
姑さんは事有るごとに有難う
「落 武 者」 山口 兄六
駐車場係は今日も濡れている 足 利
庭の石眺める雨のペットロス
広島の人の のの字が泣いている
何処で付いたのか傷だらけのパンツ
「リ ズ ム」 真田 義子
捨てました心の中にある小石 仙 台
海見えるここは私の現住所
それぞれの歩き方にもリズムあり
いちだんと五感が冴える森の中
「梅雨入り」 林 二三子
梅漬けが済んでひとまずほっとする 富士宮
植木への水やりだけは楽な梅雨
軒先を汚してツバメ育児中
嬉々としてあじさい雨に濡れている
「リクエスト」 中野 三根子
カウンター一番奥が指定席 静 岡
夢の中やっぱり飛ぶは雲の上
お気に入りなぜか何度もリクエスト
雨の夜一人ワインと彼の声
「自 由 吟」 中田 尚
厄年がゆっくり進み腹が立つ 浜 松
雨傘をイジメる雨は苦手です
死ぬまでにスカイツリーをおがみたい
お静かにスカイツリーが怒りだす
「自 由 吟」 薮﨑 千恵子
そばだてる誰もが好きな裏話 焼 津
タレントも政治も話題事欠かぬ
隣から太棹らしい三味の音が
気が付くと取り残されている自分
「日 食」 増田 信一
日食が過ぎれば下を向く日本 焼 津
日食の次の日 日傘差して出る
日食で変わった気持ちすぐ戻る
太陽を食った月にも拍手する
「遊 び 心」 石田 竹水
甘い嘘固めて包むチョコボール 静 岡
難題を遊び心が切り開く
モザイクの顔で肩書き喋り出す
尾を振って来るからあげた毒団子
「わたくし」 多田 幹江
わたくしの胸三寸で割るお酒 静 岡
毒抜けばわたしも白い灰になる
究極のお遊びでしたバイキング
粗品ですがと粗品の記念品
「四文字熟語」 渥美 さと子
口下手を隠す笑顔の四苦八苦 静 岡
青息吐息丸い背中はくたびれる
ピエロの目喜怒哀楽をよく喋る
納得は五分五分そして四捨五入
「女 偏」 池田 茂瑠
霧かかる箇所この愛に二つある 静 岡
その底にどれも刺持つ女ヘン
厚すぎるより効き目ある薄化粧
シンプルな襟と弾んで会いに行く
「自 由 吟」 森下 居久美
新東名 静岡の山貫いて 掛 川
紫陽花に負けぬカラフルランドセル
社交辞令作り笑顔に騙される
絶大な人気 過酷な舞台裏
「無 題」 長澤 アキラ
焼き鳥と赤提灯の深い仲 静 岡
居酒屋の男の背中隙だらけ
失敗作の舞台の袖が長過ぎる
だとしても遣り直せたらやりなおす
「ドッコイショ」 永田 のぶ男
芸術はふとした風の中に生き 静 岡
天からは何が降ろうと絵にはなる
程々でいいのに長生きの手相
ドッコイショ前のトイレもお年寄り
「ドギマギ」 谷口 さとみ
薬局の前がふつうに歩けない 伊 豆
シワとかさシミとかがさぁあるのよね
生なのにゴボウは可燃ゴミみたい
見てみたい最期に父が見た景色
「唐 辛 子」 佐野 由利子
好き嫌いはっきりと言う唐辛子 静 岡
タイミング外すとこんがらがって来る
見ぬ振りでちゃんと見ている男の眼
他人のクセ真似していたら癖になり
「徳 島」 真理 猫子
あいさつもそこそこに呑む酒がいい 岡 崎
うず潮のごとく注がれる一升瓶
酒宴での前科は山のようにある
生業も本名もない大親友
「ユタカの徳島」 稲森 ユタカ
盗撮をしていた僕が撮られてた 静 岡
目が合った監視カメラにご挨拶
不完全燃焼だった若き恋
飲み会の為にはるばる徳島へ
「雑 詠」 荒牧 やむ茶
七転び今日も刃を研いでいる 小 山
行列のしっぽを掴む好奇心
よーいドン カメラを持って走るパパ
燃えカスと侮り火傷した小指
「カエルの唄」 松田 夕介
雨音だけ響く相合い傘なのに 静 岡
長靴が勇気をくれた水たまり
武士気取る梅雨の晴れ間の帰り道
雨だって捨てたもんじゃあないですよ
「懐 具 合」 川村 洋未
母の日に母の財布でフルコース 静 岡
自販機は一万円を切りきざむ
御車代歩いて来たがくださいな
元上司おごられるのも気が重い
「はばかり」 望月 弘
御不浄は和服でないと入れない 静 岡
便所ではバキュームカーがよく稼ぐ
東司では頭まるめて来いという
水洗になるとトイレと呼ばれてる
「阿波の国」 加藤 鰹
渦潮を越えて来ました阿波の国 静 岡
踊らにゃソン恥は掻き捨てアラサッサ
すだち酒を飲めば聞こえる笛の音
ありがとう眉山必ずまた来るよ
顧 問 吟
「活 断 層」 高瀬 輝男
消えそうな火種だ風を送らねば 焼 津
老いてなお活断層の上に居る
ソコソコの幸あればいいなんて嘘
脱ぎ捨てていい過去ばかり貯まりゆく