霜石コンフィデンシャル121 高 瀬 霜 石
「拝啓、さいとう・じゅん様」
人様の前で、川柳の話をする時に、よくこの句を紹介する。
今日は何食べた日暮れの寒雀 尾上 松井一寸
回りは一面真っ白、どこかでチュンチュン雀の声。そんな時、ふっと浮かんだ五七五であろう。作者の優しさが滲み出ている名句である。
作者の一寸さんは、すでに故人だが、この句はこうして僕の中に生きている。
僕の趣味のひとつであるミニカー・コレクションを通して知り合ったトミー斉藤という若者がいる。
外国人ではない。ミニカーの「トミカ」から、トミカ斉藤→トミー斉藤と、僕が名付けた。
彼はとても手先が器用で、ボロボロになったミニカーを再生したりもするが、動物保護も得意なのだ。
偶然、瀕死の雀を助け育てた。雀の寿命はどれくらいなのだろう。野生には戻れないその雀(じゅん)は、家族の一員として3年目の冬を斉藤家で迎えている。
先日、じゅんの好きなクッキーを送った。宛て名は「トミー斉藤方 さいとう・じゅん様」である。
折り返し、トミーからこんな手紙が届いた。
―郵便局の配達物は、最近本人確認が厳しくなったようで、レターパックが配達された際のひとコマです。
配達員「こんにちは、レターパックお持ちしました。
さいとうじゅんさんのお宅はこちらですね」
トミー「はい、そうです」
配達員「こちらにご本人さまのサインを頂きたいのですが、お父様でいらっしゃいますよね。代理のサインの場合は続き柄も一筆お願い致します」
トミー「あのー、本人は無理なんですよ。それに、私は父親でもないんですよ…」
配達員「はぁ?」
トミー「じゅんはウチにいるスズメなんです。ですから、続き柄の所、なんて書けばいいでしょうか」
配達員(現状が理解できず、キョトンとしている)
トミー「飼い主って書けばいいですか、それとも保護者の方がいいですか?」
配達員「なるほど、そういうことでしたか(笑)それではあなたの名前で結構です」
ユーモアの理解できる方で助かりました ―だとさ。
2013年4月号