霜石コンフィデンシャル122   高 瀬 霜 石

 

「拝復、タカセのおじちゃん」

タカセのおじちゃん、お手紙ありがとう。

雀の―私のことをみんなそう呼ぶけど、私自身は人間だと思っている―じゅんです。今日は、私に「ソネ」という名の弟分(妹分かも)ができた報告。

去年の8月、お向かいさんが4羽のスズメのヒナを抱えて、私の飼い主、トミーを訪ねて来た。

「ボイラーさ点検したらスズメの巣でてきて、業者の人はそのまま放っておげって言うけど、あんまり可哀想で。あんただったら、どうにかしてけると思って」

トミーはすぐに仮設の巣を作り、ホームセンターへ。ヒナ鳥飼育用の粟玉(あわだま)と、秘密兵器「育ての親」を買って来た。この「育ての親」、手乗りの小鳥を育てる際、お湯で柔らかくしたエサをヒナの口に押し込むプラスチック製のスポイトのようなもの。結構なロングセラーなんだとさ。

トミーの奥さんは、卵の黄身と、粟玉を柔らかくするための熱湯、そして脱水を防ぐためのポカリスエットなどを準備して待機。トミー斎藤家に保護された動物たちは、大抵この方法で一命を取り止めるという。

そういえば、私がトミーに助けられたのも、2年前の8月の暑い日だった。思い出したらジーンとなった。

冷静に観察すると、4羽のうち2羽はわりあい元気。残りの2羽は、発育状態が悪く、自然淘汰対象個体。

巣立った後、野生で十分やっていける体力をつけさせようと、トミーが無我夢中で給餌して2日目。発育の良い2羽はチュンチュン鳴くようになった。

その声が表に聞こえたのだろう、立派な体格の雀が、網戸にしがみつき「ウチの子どもたちを拉致したのはお前か」と言わんばかりに、部屋の中をギロリ睨んでいる。腹を空かせている子どもたちのためにと、口にしっかり蝶々をくわえているではないか。

トミーはすぐに窓を少し開け、私と一緒に隣の部屋に隠れていると、今度は、小ぶりな母親らしき雀も餌をくわえてやって来た。彼女が、元気な2羽を表にうまく誘導し、見事に巣立ちは成功した。まるでドキュメンタリー映画を見ているようだったなあ。

発育不良の2羽のうち1羽は死に、1羽はオオマグライ(大食漢)だったから助かった。助かったが、私と一緒で野生には戻れないので、斎藤家の一員となった。名前「ソネ」は、大食いタレントのギャル曽根から。

 

 

2013年5月号