「冬 の 蝶」 戸田 美佐緒
初雪よ恋に出かけていく女 さいたま
冬の蝶回転ドアと戯れる
ねんごろの月と太宰を語り合う
野晒しの闇を噛み噛み生きている
「 腹 」 小野 修市
この腹に秘密兵器は何もない 静 岡
腹よりもアゴが出ぬようつつましく
腹芸が下手で毎日肩がこる
辛抱の腹もふくれる破裂する
「節 分」 増田 信一
鬼よりも貧乏神よ出て行って 焼 津
鬼よりも豆を投げたい人がいる
福は外鬼が居座る我が家です
鬼だって好きで生まれた訳じゃない
「春を待つ」 小林 ふく子
バトンタッチ三寒四温まだ見えぬ 袋 井
冬の絵にピンクを添えて春にする
約束を信じて春を待つおんな
雪解けに芽生えた愛の本音知る
「冷 水」 川口 亘
忘れたで済まされないが多くなり 藤 枝
人並に云える言葉は持ち合わせ
負けたのは自分の中にいる他人
若しかして甘やかされているのかも
「温 度」 酒井 可福
温風が直に感じる頭頂部 北九州
家の中冷えて来ました倦怠期
温度差はあるが輪に入る酒が好き
やけ酒の空とっくりが未だ温い
「希 望」 大塚 徳子
野の花に心惹かれて山歩き 仙 台
本の虫一人天下の午前二時
神様が帳尻合せ流れ星
海原を一枚希望いたします
「脱酸素剤」 毛利 由美
南アとは言わない南アルプス市 つくば
オラオラとせっつくヤンキーな車
ラブシーン固唾を呑んで見る家族
肉まんを脱酸素剤ごとかぶる
「ままならず」 井口 薫
言い訳をしてもファスナー妥協せず 袋 井
黒を着て黒幕がするかくれんぼ
わら半紙世代で仕分け苦手です
釘一本抜けば許せるものなのに
「温 泉」 濱山 哲也
温泉に入ればサルも人の顔 つがる
ベルリンの壁より厚い湯の仕切り
ぬるま湯にどっぷり浸かるお偉方
カラコロと逢瀬の下駄が行く秘湯
「砂 糖」 山本 野次馬
ティーカップ シュガー二杯のわだかまり 函 南
糖蜜をたっぷり掛ける議場席
蟻の列右40度傾ける
角砂糖即死のように逃げて行く
「予 感」 提坂 まさえ
妻の足見て大根を抜きに行く 静 岡
愛の讃歌頷いているシクラメン
第一章深爪になる独り言
もうないね死に目夜中に爪を切る
「検 査 前」 松橋 帆波
ポイントが診察券に付いたなら 東 京
点滴の針をゆすると骨の音
食欲の切なさ辛さ検査前
ポリープじゃなかったエレキバンでした
「ミス・マッチ」 瀧 進
老脳の歩調合わない二進法 島 田
デジタルの秘策たやすく盗まれる
アナログの脳で心が温かい
DNA変換ミスが鷹を産み
「手 弁 当」 森 だがやん
手弁当車の中もレストラン 島 田
手弁当冷めちゃいるけど温かい
手弁当喧嘩しちゃうと日の丸に
手弁当ご飯詰めるの忘れてる
「 新 」 川村 美智代
新インフル流行りに疎いわが家来る 静 岡
新しい風を吹かせたモテ男(ユタカ君)
バイク買う肩しょんぼりと古バイク
新しいわたしを探す途中下車
「痛 み」 芹沢 穂々美
わたくしの体で皮膚が呼吸する 沼 津
生命線短いけれど太く生き
セクハラか体に触る療法士
師走でも頑固な痛み譲れない
「雑 詠」 安田 豊子
味噌汁の香りほのぼの母の味 浜 松
ありがとう素直に言える淋しい日
夕焼けへ余情をつなぐ点と線
ゆっくりと独り舟漕ぐマイペース
「自 由 吟」 成島 静枝
申告へ雀の涙蟻の自負 千 葉
園児ともなるとパッタリ来ない孫
首振ると脳の縮んだ音がする
ヤバイかもおんなじミスを二度三度
「暇つぶし」 薗田 獏沓
セールスと無駄話して暇つぶし 川根本町
橋の上覗いて居たら怪しまれ
酒のめるだけで術後の日を過す
たまに掃き箒その侭母が来た
「禿 げ」 畔柳 晴康
禿げ頭つるりと撫ぜて詫びを入れ 浜 松
叩いても名句は出ない禿げ頭
孫までも爺の頭の禿げ撫でる
禿げ頭光らせ集うクラス会
「 足 」 川口 のぶ子
思う程動かぬ足に叱咤する 藤 枝
杖なくば歩けぬ事のもどかしさ
落ち込むな案山子に負けるな二本足
幸せを勝ち取りたいと宝くじ
「冷 え る」 鈴木 まつ子
移り気が三年もたず冷めていく 島 田
相性のはずが一転冷えた仲
冷めた恋 愛の渇きへ満たされず
躓いた足へひきずる身に堪え
「お で ん」 石井 昇
薄味のおでんで敵が居りません 蓮 田
格差って悲しいことが流れてる
快刀乱麻ストレスが逃げてゆく
野に生まれ土耕やして土となる
「自 由 吟」 飯塚 すみと
朝粥を旨いテレビのコマーシャル 静 岡
製図好き人に解らぬ心地よさ
下書きの軽い気持で決算書
不愉快な政界ばなし横に置く
「都道府県対抗女子駅伝」 尾崎 好子
年末に買った地デジへ正座する 藤 枝
木村さん未来くん賞我が母校
中学生二人揃って区間賞
優勝と二分差だった静岡県
「自 由 吟」 恩田 たかし
寒い冬ヒーター前でにらめっこ 静 岡
こたつない電気カーペットにへばりつく
寒空の夜中にチャリで帰宅道
雨音が不穏をなくす子守唄
「エ コ」 林 二三子
ああすれば こうすればエコ工夫する 芝 川
アクリルのタワシでエコに参加する
洗濯も風呂の残り湯利用する
付け放し流しっ放しはタブーとし
「彼奴(きゃつ)は半野良」 多田 幹江
ぼやきつつ彼奴らのエサを炊いている 静 岡
彼奴らを待って門灯は眠らない
恋はれもの彼奴はピチャピチャ水を呑む
追い出せば彼奴は振り向く雨催い
「 空 」 稲森 ユタカ
大空に雲で描かれた世界地図 静 岡
陽を目指し空に浮かんだ無人島
空絞り青い世界が顔を出す
ため息が白く空へと溶けていく
「きらきら」 中野 三根子
雲の上海も光って美しい 静 岡
南国の空と海とがまぶしくて
夜の海漁火がまた光り出す
夜明け前美しすぎる海と空
「引 退」 中田 尚
手のひらにくつがえされた日本の美 浜 松
内舘と打ち合わせたか共に消え
新理事の仕事はクビをきる
にぎやかな網一本が消えちゃった
「埋 み 火」 勝又 恭子
ガラス越しもう温もりは届かない 三 島
雨の日はさくらあの日の色で咲く
情熱を秘めてしずかなあたたかさ
凪ぐ海へ私を同化させていく
「岐 路」 山口 兄六
またねなどないピリオドに見送られ 足 利
そぞろ神僕をだましてくれないか
傘君に渡して濡れて帰ります
電源が切れて自由な岐路に佇つ
「湯 煙」 山下 和一
ため息がゆるりそろりと湯に溶ける 伊豆の国
湯煙のゆらぎに惑う古狸
極楽の見まごうほどの地獄谷
効能はわたしと妻が知っている
「気付かない」 高橋 繭子
徘徊と気付かせぬよう散歩道 大河原
さびしいと気付かぬように血糖値
やる気ないこと気付かせる休業日
嘘泣きに気付いてしまう同い年
「ブランチ」 森下 居久美
ブランチにしようか雨の日曜日 掛 川
月曜の朝は卵かけご飯
めずらしく家族が揃う日の手巻
いいともを一人で笑うカップ麺
「追 憶」 谷口 さとみ
そこだけがカラー記憶のシャボン玉 伊 豆
思い出を語るアナタの目に嫉妬
塗りたいなあなたの記憶わたし色
思い出は税の絡まぬ遺産分け
「巣籠もり」 真 理 猫 子
主義主張持ち込んで乗る自由席 岡 崎
巣籠もりをさせる一言多い口
喝采が起きるキャベツの葉の裏で
日本語が日本人よりうまい人
「鉤 括 弧」 佐野 由利子
南から噂話が風に乗り 静 岡
この話 絶対ヒミツ鉤括弧
よそよそしい態度気になる葱坊主
クシャミすれば点火するかも導火線
「牡 丹 雪」 今井 卓まる
キスの邪魔する銀色の牡丹雪 浜 松
もう一度白い糸から染め直す
席替えを仕切る僕には下心
ライスカレー薄い幕張り黙秘権
「気 持 ち」 川村 洋未
真に受けて迎え頼んで嫌がられ 静 岡
怒ったら僕の茶碗と箸がない
怒られた本気で僕を好きなんだ
出かけるの?カレー作るとすぐ言われ
「自 由 吟」 藪崎 千恵子
いろいろがあっていろいろ考える 焼 津
追い討ちをかけられまたもダウンする
外国で匠の技が光り出す
良い知らせあり一日締め括る
「教 え」 石田 竹水
泥に住み蓮根泥を学び取る 静 岡
神風の神話四島捥ぎ取られ
化粧した個性豊かな五色豆
磨かれたポッケの小銭出世する
「胸の菩薩」 池田 茂瑠
虚勢です私は羽根のない女 静 岡
失意の日胸の菩薩の続き彫る
罠が待つ橋渡っても戻っても
季が移る杭を固める愛へ打つ
「風の記憶」 長澤 アキラ
スベリ込みセーフで昭和生き抜いた 静 岡
魂のときめく先は赤提灯
ポロポロと零し続けている記憶
過去みんな畳んで明日は風になる
「新年を迎えて」 永田 のぶ男
五円玉ご縁の鈴を強く振る 静 岡
プライドが老化するたび蛇行する
O型は大陸的で度胸よし
大吉の後で小石にけ躓く
「ウ ツ」 高瀬 輝男
石蹴っただけで沈まる軽いウツ 焼 津
一時の沈黙風も変るだろ
気負い過ぎ尻尾を踏まれないように
群れの中仏顔した僕もいる
「アナログ」 望月 弘
太陽の勧めるままに冬を脱ぐ 静 岡
豹変もしない夫にもの足りぬ
アナログの愛だ時効を撤去する
マンホール女人禁制かもしれぬ
「ガラスのマント」 加藤 鰹
運命の出会いかハローサンシャイン 静 岡
金よりも鉄に引き寄せられた僕
バーチャルの世界に棲んでいる魔物
ひょっとして高田三郎さんですか
顧 問 吟
「わけあり」 柳沢 平四朗
疎まれる親で明日のページ知る 静 岡
わけありの疵を匿う共布がない
ひたすらの道は鵜の目と鷹の目と
ユルキャラの自嘲をつなぐ吹溜まり