霜石コンフィデンシャル129   高 瀬 霜 石

 

「 振 ら れ た 気 持 ち」

前号で、ビートルズの「六十四歳になったら」の歌詞通りに、僕もとうとう六十四歳になったと報告した。

オリンピックが東京に決まって、誰しも7年後の自分を想像したはずだ。僕もそう。僕は七十一歳になる。

同級生がバタバタ倒れている昨今。アブナイ添加物―チクロとか―をたらふく食ってきた団塊世代には、七十歳前後は「いのちの曲り角」のようである。

僕の敬愛する川柳家、渋谷伯龍さんは、僕より7つ上だがとっても元気。そうだ。伯龍さんを目標にすればいいのであ~る。

ただねえ、伯龍さんはボーイスカウト出身のアウトドア派。今でも毎日一万歩以上歩いているという。

一方の僕はというと、1日に千歩も歩かない筋金入りのイン・ドア派だから望むべくもないか。

 

話は飛ぶ。ビートルズ旋風が吹き荒れるちょっと前、1962年の秋、フォー・シーズンズの「シェリー」という曲が大ヒットしたのをご記憶だろうか。日本でも、九重祐三子&ダニー飯田とパラダイス・キングが歌ってヒットした。そのフォー・シーズンズが初来日するというから、すぐに息子に頼んで切符を取った。

たった一晩限りのコンサートだという。リード・ボーカルのフランキー・ヴァリは、1937年生まれ、七十六歳。こりゃ、どうしたって見納めだわな。

きっとファンもロートル。まさかワーッと立ち上がったりはしないと踏んだ。そうそう、歩けるうちが華なのよと、勇んで出かけたのだった。

会場は九十年の歴史を誇る日比谷公会堂。宿は新橋。このへんは昔サラリーマンだった頃の縄張り。おまけに公会堂へは徒歩十分ほどだからベストだ。

さあ、午後6時、待ちに待った開場♪。

入り口に張り紙があり、若い男女がいて僕を見ている。恐る恐るふたりに近づいた。

「あのー、ひょっとして、フォー・シーズンズのコンサートに来られた方ですか?」と聞いてくる。

「んだよ。何?どした?」

「あのー、知りませんでしたか?実は、コンサートが中止、イエ、延期になったんですよお」

「何だって!オラ、わざわざ青森県がら出てきたんだ。新幹線で。一体どしてけるんだ」

その晩、ライチャス・ブラザーズのヒット曲「振られた気持ち」を口ずさみ、ひとり新橋をさまよった。

 

2013年12月号