霜石コンフィデンシャル130   髙 瀬 霜 石

 

「 優 し い 悪 魔 」

1960年代に活躍したポップス・グループ「フランキー・ヴァリ&フォーシーズンズ」のコンサートに、わざわざ東京まで行ったのにフラれてしまったことを、前号でついグダメいて(愚痴を言って)しまった。

渡された「詫び状」を見て驚いた。倒れたとつい思った彼は、ピンピンしているのだった。以下、その理由。

―彼らを題材にした「ジャージー・ボーイズ」なるミュージカルが、あちらで大ヒットしているんだと。

そしてなんと、今度ソレを、あのクリント・イーストウッド監督が映画化することにしたのだと。

そしてそして、イーストウッド監督が「史実について正確を期すために。九月からの撮影現場に是非本人が立ち会って欲しい」と直接ヴァリに頼んだんだとさ。

自分の伝記映画を、あのイーストウッドが撮る。そりゃあ舞い上がる。ましてや、老い先短いヴァリ(76歳)である―そうだ、イーストウッドはもっと年上(82歳かな)―もう二度とないチャンスだ。

ところがところが、撮影の日程が日本公演とバッチリ重なっている。さて、どうしよう。揺れに揺れ、結局ヴァリのわがままを通してやったというのが顛末。

 

振替公演は一月十八日。そのまま券は有効というけれど、一月だと雪で今度はこっちの都合が悪くなりそうだから、すぐにキャンセルし、飲んでしまった。

交通費とホテル代。被害は甚大だ。はじめは腹が立ったけれども、なにせ相手がイーストウッドとなると、映画ファンとしては鉾を収めるしかないわなあ...。

映画は2015年公開予定。早撮りのイーストウッドだから、もう完成しているのだろう。乞うご期待。

 

さて、十一月のポール・マッカートニー公演は、凄いことになった。チケットは当然のことながらAKB48並に抽選である。僕はもちろん外れた。

その1万5千円の東京ドーム公演チケットが、ネットオークションでなんと40万円で売り買いされていた。

そんな矢先「お父さん。大阪ドームの切符、2枚手に入った!」と京都に住む息子から嬉しいメールが入った。

僕はすっかり舞い上がってしまい、友人らにかたっぱしから自慢した。その中のひとりが僕にそっと囁いた。

「売ってやろうか。1枚40万円だってよ」。

悪魔はどこにでもいるものである。

―ポール・マッカートニー公演、次号に続く―

 

2014年1月号