霜石コンフィデンシャル137   高 瀬 霜 石

 

「無芸(蕎麦)大食」―五枚目―

 

生まれて初めてそばがきなるものを食って、値段の高いのに驚いて恥をかいた話を、前号に書いた。

そばがき【蕎麦掻き】―蕎麦粉を熱湯でこねて、餅(もち)状にしたもの。醤油・つゆをつけて食べる。そばねり。冬の季語(広辞苑)

我々が普通蕎麦といっているものは、正しくは「蕎麦切り」であり、歴史的には「蕎麦掻き」の方が古いこともよーく分かった。が、そんなことはどうでもいい。僕はこれからも断然蕎麦切り党に与し。もりとかけを愛し、そばがきなんぞには目もくれないもんね。

 

亡くなった先輩の薦めで地元弘前の「藪きんの中華そば」を知り、やみつきになり、週に最低一回は通って、もう三〇年くらいたつ。もちろん。中華そばばっかり注文しているわけではないが、中華そばのインパクトは強い。

「藪きん」はれっきっとした日本蕎麦屋であるが、ここの中華そばは格別なのだ。先日も、店内を見渡したら、お客が十人いて、そのうち七人が中華そばを啜っていた。それほどの人気メニューなのだ。

関西に住んでいる息子がたまに帰省すると、こっちも少し気を遣う。何か食いたいモノあるか?なんて一応は聞く。彼の答は決まって「藪きんの中華」だ。

暖簾をくぐる。いい匂いが鼻をくすぐる。先客が一人でも、中華そばを食っていたらもうイケナイ。ツラレてしまうのだ。

蕎麦に目がない僕でも、心はガタガタと崩れる。そして「ワさも中華!」と叫んでしまう。次の客も、そしてその次の客もしっかり罠に嵌ってゆく。

 

ところがどっこい、上には上がある。カレー南蛮というくせ者だ。この匂いはなんとも強烈。これを嗅いだらもうアウトだ。降参。迷う。

中華か、カレー南蛮か。鼻はカレー南蛮を求めているが、舌は中華を欲しているぞ。ではこの際、2つ頼んでしまおうか。となると、懐にも響くし、胃袋も悲鳴をあげそうだ。ウム…。悩む。

そんな食いしん坊のために、先代が(多分)作り出したのが「カレー中華」。一挙両得。満足度100%。

まだ食べたことない方、一度おためしあれ。

ラーメンと呼んじゃいけない中華そば  霜 石

 

2014年8月号