やられた・・・やられた・・・あーやられた。

どうせなら最新型の奴にやられたかった。なのに、よりによって超古典的な昭和の半ば頃の型に、まんまとやられるとは・・・不覚だーっ!

その男が店に入った瞬間、私の勘ボタンが黄色く光った。何だ?何だ?この黄色は。理由なく点灯しっぱなし。店内では先輩スタッフがその男を対応している。ちなみにうちの店はTシャツは2万円、パンツは3万円、ワンピースは4万円以上。たまにはいるが、この男も値段を見ずにマネキンに着せてある新作を、これとこれ、と決めた。どうやら新規の良いお客様らしい。が、ここで男は、切り出した。

「実は先日こちらで義母が買ったパンツに傷が・・・」ときた。先輩が応対している間に売上記録と在庫表を調べた。・・・ない?売れていない?在庫である・・はずだ。途端、黄色は赤へ。先輩にそっと知らせるが、すでに先輩はキズ物を売ったことをひたすら詫びている。さらに男は、買った時はセール前で今は半額セール中だが、代わりの物をプロパーで買うから、とりあえずこれを返金してください、と言う。休みだった店長に電話をすると、素直に返せという。だけど、何かが赤信号を出している。男は「時間がないので、一度戻るが、夕方来るので、ワンピースなどはその時支払うので、包んでおいて」と言う。

こうして今、読んでいる皆さんには、冷静に対応策が浮かぶことと思う。が、流暢かつ丁寧な上に、急ぐ男のペースと、キズ物を売ってしまった負い目のなかでは、見事に相手のペースにはまってしまったのだ。

それでもぎりぎりまで、信じる気持ちを捨て切れず、待ってみたが、結果として、話の中に出てきた義母も妹も妻も男も、誰も現れず電話もない。店に残ったのは、きれいに包んだ4万円のワンピースと3万円のパンツと、それに貼ってある{タナカリョウコ様}というメモ紙と・・・マイナス3万円のレシートだけだった。

あー、くやしい!冷静になれなかった自分がくやしい!この店に目をつけられたことが、たまらなくくやしい!定価をプロパーと言ったあの男。モンタージュで一発なんだけどなあ~。

初心に却ってがんばれってことなのかもしれない。

 

 

2014年10月号