霜石コンフィデンシャル86   高瀬 霜石

 

「知事を待たせた男」

 

FMアップルウェーブ(以下、AW)が開局したのは十年前の、平成十二年三月四日。「1・2・3・4・元気に、GO!」の掛け声で始まった。

川柳人の僕が、AWに係わることになったのは、浮世の義理。一番安いコースにつきあうしかないかなあと諦めていた時、準備スタッフから電話が入った。

「高瀬さん。高瀬さんは宣伝費なんていりませんよ」

「エッ?本当?嬉しいなあ。君、いい男だね」

「でもね、高瀬さん。そのかわりと言っちゃあナンですがね。高瀬さんは、身体で払ってもらえませんか」

「エッ?なんだって?」

「聞こえませんでしたか。身体です。カ・ラ・ダ」

そんなこんなで「やじうま川柳」なる番組も持って

―オット間違い、持たされて―丸十年が過ぎた。

僕に電話をかけてきたその憎っくき(?)男は、当時の「ブナコ」の社長で、倉田昌直という。彼の奥さんが、あろうことか倉田和恵アナウンサー。

番組のスタートから、彼女と僕は、ずーっとコンビを組むことになるのだから、人生はわからない。

この十年間、僕は多分5キロくらい太って、髪の毛も半減したが、彼女は少しも変わらない美貌を保っているから不思議だ。ひょっとして魔女かもしれない。

一番変わったのは「ブナコ」だ。かつては、ちょっとした郷土の工芸品だった(失礼)のが、今や、世界的な評価を得て、天下に轟く「BUNACO」に大変身したのは周知の事実。誠にめでたく、誇らしい。

「やじうま川柳」は、午後三時からの十分番組。生放送の間に入る録音番組だから、多少オーバーしても問題がないので、たいていは十二分くらいになっている。

ある日、三村知事がスタジオを訪れた。生放送である。三時十分には「やじうま川柳」が終わり、おもむろに知事のインタビューが始まるはずであった。

三時九分。知事はスタジオに入り、スタンバイをするが、三時十分を過ぎても、まだ高瀬某のくだらないおしゃべりは続く。スタッフは、知事に申し訳なくてアセル。録音なので仕方がないのだが、冷や汗タラリ。狭いスタジオで、じっと待つ1分はそりゃあ長い。

県庁に陳情とかに行って、待たされた人はごまんといるはず。でも僕は、知事を、密室に、3分も待たせたのだからね。たいしたものでしょ。ハ、ハ、ハ~。