「恋愛白書」 栃尾 奏子
春霞軽い恋わずらいの中 大 阪
真っ白なキャンバス君を閉じ込める
ときめきを優しく照らす月明かり
聞き分けた小指フォルテシモで歩く
「再 会」 薮﨑 千恵子
うれしいが出費も嵩む祝い事 焼 津
浮かれ出しカラスも唄う花の宴
花冷えの中で話の温いこと
再会を喜び合っている桜
「 春 」 奥宮 恒代
ランドセル子供手当は僕のもの 森 町
暗号の解けないままに春がくる
美しい秘めごと春の蕾たち
春の戸を押してあなたに逢いにゆく
「自 由 吟」 井口 薫
春の義理果たしにちょいと京都まで 袋 井
さあ巣立ちパシッと傘はたたもうよ
ユニクロもパジャマも着たい胡蝶蘭
桜並木植樹の鍬へありがとう
「 桜 」 成島 静枝
屋台から桜へ散るな春の雨 千 葉
八分咲き青い恋人手をつなぎ
有終の美よ来世への花筏
桜湯を振舞う話せぬ息子
「春 彩」 川村 美智代
一面の桜色から目を外す 静 岡
菜のはなの花から花へ小さい虫
安売りで無駄買い気付くレジのあと
ブランコの揺れに任せる花模様
「三十八度線」 斉尾 くにこ
さくら満開あふれでるラブレター 鳥 取
今だから会いたい見てただけの人
ダブルベッドへいつか三十八度線
堕ちてゆく奈落支えてるプライド
「健 康」 濱山 哲也
嫌な上司きょうも青汁飲んでいる つがる
医者なのにズックとジャージ買えという
人インフルで地球の熱が下がらない
健康のために今夜も繁華街
「スカイツリー」 提坂 まさえ
百年の恋か不作か解熱剤 静 岡
新人のマニュアル通り熱い春
言ったこと消してやるよとシュレッダー
タケノコとスカイツリーの伸びる音
「 春 」 荒牧 恵三
春の朝桜の花に雪が舞う 小 山
記念日を間違え当てた万馬券
おかわりとフードファイターやせ我慢
可愛いねランドセル達踊ってる
「遅 刻」 森 だがやん
飛び起きて鳴らぬ時計を睨みつけ 島 田
間に合わぬ何度見たって戻らない
諦めた いっそゆっくり支度する
目が覚めて夢と気付いて二度寝する
「 黒 」 岡村 廣司
握手して黒に染まると知りながら 焼 津
言い訳をしたって黒は黒なんだ
白黒をつけりゃすっきり出来るのか
黒幕が動くとすぐに片がつく
「三月もおわり…」 新貝 里々子
当麻寺の桜咲いたとそそのかす 袋 井
いざ行かん整形医師はいいおとこ
筍のさしみいそいそ酒支度
春眠を絶つ寝たきりにならぬよう
「自 戒」 瀧 進
自惚れの凧舞い上がり糸が切れ 島 田
自惚れとはったり合わぬ喧嘩四つ
自惚れの背中黒子に見透かされ
自惚れの鼻息風に吹き消され
「酔 う」 芹沢 穂々美
白酒に酔ったふりして添い寝する 沼 津
沈丁花ほのかに香り罪つくり
吾子と折る紙の雛の歪顔
口も手も出さず嫁との距離をおく
「女 難」 戸田 美佐緒
拳骨の中で女難が騒がしい さいたま
言い訳はしないと決めた雨あがり
使い捨てされても笑う紙の皿
折り返し地点の夜が絡みつく
「笑 い 声」 加茂 和枝
本当の幸せ家族が揃う膳 岩 沼
寒い冬乗り切り太い芽が伸びる
ひとりから二人と続く笑い声
寒かった冬を乗り越えさくら咲く
「五月晴れ」 小林 ふく子
朝寝坊しているうちに初夏になり 袋 井
カーテンが初夏の音符のように揺れ
五月晴れ会いたくなってただ走る
爽やかなメールが欲しい五月晴れ
「自 由 吟」 村越 精也
我が夫婦「点と線」よりミステリー 静 岡
ぼけぼけと互いに云うはぼけ防止
ぼけぬ間に感謝ありがと云っておく
歳だなとオシッコチョロチョロ同窓会
「年齢早見表」 毛利 由美
エイプリルフールと気づくまでに嘘 つくば
「なおざり」と「おざなり」またも辞書を引く
仕送りにラーメン一箱を添える
読む本もなくて年齢早見表
「素敵な人」 真田 義子
電話して話をしたい春の月 仙 台
昭和には不思議な力ありました
三分粥母の優しさ染みました
桜咲く道で素敵な人に逢う
「雑 詠」 滝田 玲子
借りもののベールを飛ばす春嵐 浜 松
新空港空席目立つ不況風
タンスかたかた預金はないと笑われる
ナマハゲも草食系でおとなしい
「無 題」 西垣 博司
見当たらぬ茶柱討ち死でござる 静 岡
走り書きヒミツと思うふしがある
再検査処分して来た雑記帳
影でいいあなたのそばに居られたら
「横 断」 高橋 繭子
悠然とネコ横切ってから車 大河原
歩道橋ない道行けという社命
好きだよと言ったら遮断機が下りた
不況という川にかかるは丸木橋
「 恋 」 松橋 帆波
王女でもないのに王子様を待ち 東 京
指と指絡めて世界二人占め
男です指輪が邪魔な夜だとか
妻よりも柔らかい手と罪を積む
「夢 中」 石上 俊枝
豊かさに夢中のツケが温暖化 静 岡
運命と夢中で看護星の彼
椀子そば体の中をひた走る
ただ夢中折り返し点とうに過ぎ
「自 由 吟」 萩原 まさ子
1リットル涙の後の深呼吸 静 岡
離婚までツッコミ芸のネタにして
あと一歩生意気な子に助けられ
幹事役飲んべえリスト渡される
「春らしい」 鹿野 太郎
札束で裏口叩くおぼっちゃん 仙 台
束の間の癒しをくれた鳩時計
指先に集めた幸がむしられる
青春の肥やしかつけか宵っ張り
「ロボット」 山本 野次馬
身代わりにロボットひとつ召し上がれ 函 南
立ち止まるたびにアトムの顔になる
人事課にロボット用の充電器
ロボットが背負う日本の地平線
「隠 居」 中矢 長仁
御隠居さん趣味川柳で指を折る 松 山
長生きももうここからは惰性です
何時までも年金減るで生きとって
乾杯を今日も一日無事だった
「 翼 」 藤田 武人
サイレンと同時に迫り来る翼 大 阪
忙しなく羽ばたき告げる春の声
夢の星目指し翼が越え高く
パパは店ママは昼寝で羽伸ばす
「チャイナ」 寺脇 龍狂
春靄とみせて黄砂を送って来 浜 松
折紙はできるが蚤がこわい指
衣も食も安いチャイナに養われ
呆けはじめ飯と汁とを盛りちがえ
「雑 詠」 内山 敏子
どの人も素敵に見える色眼鏡 浜 松
口笛もリズムに乗せる春の風
年金が笑って孫のランドセル
常備薬連れて心身リフレッシュ
「雑 詠」 寺田 柳京
銀行が呉れる粗品に嘘はない 静 岡
中級の意識で並ぶ棚の皿
猫柳の産毛を撫でる物思い
悪童が猿に教えた変な癖
「花は桜木ね」 増田 久子
ゆっくりと桜の下を介護バス 焼 津
花筏はじまっている七分咲き
花便り落下さかんで締めくくる
夜桜が好きで今宵も出てる月
「辛 抱」 薗田 獏沓
辛さにも堪えて信用ついてくる 川根本町
辛抱の足りない犬がよく吠える
我慢する度に根性培われ
自分史に我慢の過去を派手に載せ
「つぶやき」 鈴木 まつ子
没句にも自信はあったひとりごと 島 田
年金も介護も期待多すぎた
取り切れず唯々悔いる負け力士
寝たきりへ仏と鬼の仮面もち
「鬼 で は」 川口 のぶ子
張子でも寅が一番いかめしい 藤 枝
寅の皮鬼に盗られて雨を呼び
鬼の面被って父が子等を追う
鬼面になって横綱地位を去る
「天 の 川」 大塚 徳子
三、三十 満月の誕生日 仙 台
夜空からコンペイトウが降ってくる
おうし座と付かず離れずおひつじ座
母さんがウインクしている天の川
「クラス会」 畔柳 晴康
師が逝って今更ながら恩を知る 浜 松
久し振り点と線との顔集う
酔えばでる濁声張って校歌など
揃ったな禿げと白髪のクラス会
「雑 詠」 安田 豊子
おだやかに見せて傷口なめている 浜 松
目には目を一寸先は修羅の道
運命線行きつ戻りつ罪つくる
追憶のかけら織り成す万華鏡
「 袋 」 酒井 可福
雑学の本を頼りの知恵袋 北九州
紙袋愚痴を詰め込み破裂させ
焼き芋が袋のニュース読んでいる
お徳感だけで満足福袋
「自 由 吟」 鈴木 千代見
あまりにも誉められすぎて後恐い 浜 松
うれしい時笑顔をくれる人が好き
ときめいただけで今年の桜散る
自分らしさが一番と見栄はやめ
「近 況」 川口 亘
脳トレになると云われて歌に凝る 藤 枝
悪いとは知りつつ出来る居処寝
濡れ衣のような羽目なら捨てて生き
開眼の光眩しい朝を呼び
「雑 詠」 飯塚 すみと
どしゃぶりで車検日重なり出られない 静 岡
禿げの人カラオケ会を取り仕切る
ハイテクの披露進めにつかれ出る
メタボにはマグロ禁止もいい色だ
「足利事件・菅家さん」 尾崎 好子
人間のする事だもの有る違い 藤 枝
犯人は生きて居るやら居ないやら
DNA億を類別する進化
日の本へ完全無罪知らせ占め
「チャリ通勤」 恩田 たかし
原チャリも車もないからチャリ通勤 静 岡
半年間雨や風でもチャリ通勤
寒くても三十分でホッカホカ
知らぬ間に四キロ痩せてベルト切る
「丸 い 膳」 石田 竹水
朝刊のネタで二人の朝御飯 静 岡
検索の震えに答え見失う
御馳走は無くてもふたり丸い膳
緞帳が降りて溜息深呼吸
「説 明 書」 川村 洋未
どれ見ても知りたい事が書いてない 静 岡
意地悪でカタカナ用語多すぎる
これは良い眠れない時読む薬
おばさんの意見が大事世の中は
「花 吹 雪」 森下 居久美
腹の虫空き缶いくつ蹴飛ばせば 掛 川
空気にはなれない加齢臭がする
潔く緑へ譲る花吹雪
反論を躊躇している四十肩
「旅 立 ち」 勝又 恭子
隠してた爪がすっかり丸くなる 三 島
生かせない反省今日もしています
決断へ最後に頼るのは自分
遠い日へ約束一つ置いておく
「デンパ山」 山口 兄六
サクラ舞うピンクだったら負けないね 足 利
ありがとうごめんね疵を舐めあって
コーヒーかココアで迷うモグラ族
さようならなんていきなり言われても
「エベレスト」 稲森 ユタカ
タンス裏出てきた父の乳ビデオ 静 岡
ブラウスにかすかに見えるエベレスト
見ないふり荷物持ち替え空いた手を
メール来たハート発見勘違い
「 風 」 増田 信一
追い風が慣れず足元フーラフラ 焼 津
向かい風 体かがめてやり過ごす
横風はそのまま任せ寄り道だ
暴風雨何もしないで寝て過ごす
「めんどくさ」 谷口 さとみ
試着しただけで洗いに出す娘 伊 豆
こらこらこら玄関前でつぶれるな
心配だレモン百個分サプリ
曲がり角ハクモクレンのサプライズ
「熟 女」 多田 幹江
さそり座の熟女は蟹の爪が好き 静 岡
耳年増ほんとの歳はアカサタナ
テンションの高い熟女はご用済み
アメ鞭に動かないのが熟女です
「花 び ら」 中野 三根子
ひらひらと散る花びらの声をきく 静 岡
花びらを追っかけて行く風のあと
桜咲く舞い散る水に花いかだ
髪に散る花びら二枚蝶に似て
「縦横無尽」 永田 のぶ男
人恋し携帯電話無礼講 静 岡
いい夢を長い梯子で覗き見る
一目散朝まで追われ悪い夢
ミニショート老人席に横座り
「冬が行く」 長澤 アキラ
逆立ちをして逆転の策を練る 静 岡
緞帳をおろし犬歯の納めどき
計算をするたび違う罪の数
冬がゆく発車のベルを響かせて
「自 由 吟」 中田 尚
鈍行でやっと見つけたボクの駅 浜 松
マネキンが何より早く招く四季
マイナスの風と今なら向き合える
どうせならすみませんよりありがとう
「お 揃 い」 池田 茂瑠
振り向かぬ意地を背筋に太く持つ 静 岡
お揃いのパジャマも同じように褪せ
愛されていてもナイフは研いでおく
この胸にあなたの罪が重すぎる
「隠 し 事」 真理 猫子
隠せない気持ちを隠す塩むすび 岡 崎
へそくりの中に隠した吉備団子
感情線隠して君と握手する
他人にはなれない人がひとりいる
「減らず口」 佐野 由利子
あっまたも言ってしまった減らず口 静 岡
断りを嘘も交えて来る電話
割り切ってしまえば肩の荷も下りる
春の風自慢話を聞いている
「人さまざま」 高瀬 輝男
笑う人泣く人明日も陽は上る 焼 津
生きるのに必死で無我になどなれぬ
標的にされるは男たる自信
花の無い草へも満ちる陽の恵み
「サ ク ラ」 望月 弘
三月に散って四月に咲くサクラ 静 岡
デジカメにサクラの主権盗まれる
満開の延命治療する寒波
肝臓に有無を言わせぬ花見酒
「さ く ら」 加藤 鰹
夜桜の下でアブナイ二人連れ 静 岡
百段の階段ダッシュして君へ
満開にコンビニむすび味気なく
花びらが舞うお別れの改札に
顧 問 吟
「世 渡 り」 柳沢 平四朗
老春の窓も色よい返事恋う 静 岡
慢心を叩く一途な不立文字
就活へ見失うもの拾うもの
ダイヤ婚こんな名も負う欠茶碗