霜石コンフィデンシャル89   高瀬 霜石

 

―井上ひさし著「吉里吉里人」へのオマージュ

「ギリギリ政府(セーフ)」

アレが、初めて日本国民の前に姿を現したのは、そう、平成二十二年の初夏のことであった。

「臨時ニュースを申し上げます。羽度山首相が今朝、『僕は、もともと決断力もなく、首相の器ではありませんでした。ママからいっぱいお金を貰っていたのに、そんなの知らないと嘘を言い、国民の皆さまを欺いておりました。ごめんなさい。僕は今日限りで、首相を辞めます。議員バッジも外します』と泣きながら、職務をほっぽり出しました」

「オット、またニュースが入りました。羽度山首相の会見の十分後、今度は、大沢幹事長の辞意表明です。『エー、由紀夫クンは、議員辞職する必要はないです。確かに脱税は悪いです。でも、もとはママのお金。出所はきれいです。それに比べて、私の方は、もうマックロケーのケ。しかも、秘書たちに全ての責任をおっかぶせ、知らぬ顔の半兵衛。なんとも恥ずべき行為。ほとほと自分に愛想が尽きました。よって、私、大沢一郎は本日ただ今、永田町を去りますが、我が民衆党は永久に不滅です』と、どこかで聞いたようなセリフを残して、自ら東京地検特捜部へ出頭した模様です」

羽度山、大沢の辞任で、民衆党の支持率はぐんとアップしたが「860兆円も国の借金があるのに、今のバラマキはおかしい」というマトモな声が上がり、民衆党は分裂。与野党問わず、自らの不徳を認め辞職する議員も続出して、自然に議員は半減した。

 

《立ち枯れニッポン》のロートルたちは、「我々はフツーの年寄りよりも実はずーっと沢山年金を貰っているので、議員報酬は返上する、残り少ない人生をこの国の未来に捧げる」と吠えた。結局、議員報酬は半額。ボーナスは全額カット。国家公務員の、4ヶ月以上のボーナスも、国民感情にそぐわないから半額と決定した。

普天間問題は、関西空港にすんなり決定。以来、日本国中の赤字空港から、是非基地を誘致したいと手が上がり、関東方面では静岡空港に決定した。これで、日米関係はグーンと改善され、とりあえず一件落着した。

「ムリ、ムダの見直し」ということで「子供手当」は休止。「もったいない」「エコとの折り合いは?」という問いかけから「地デジ」も延期となった。

その後の研究で、アレは突然変異の新種のウィルスと判明。どうやら、アレは、人の目には見えない《黒いはらわた》《真っ赤な嘘》《白々しいお世辞》《黄色いくちばし》《二枚舌》《七光り》《尻尾》《心の中のヘドロ》などが好きで、ソレにとりつき、食らい、どんどん成長するらしいのだ。

ウィルスというとあまりいいイメージはないが、コレはヒトにはいいモノらしいということになり《マニンゲン・ウィルス》と名付けられた。北朝鮮、中国ともコレが入らぬように警戒を強めているという。 とっちばれ。

※編集部注・このエッセイを霜石さんから頂いたのが五月末、それから数日後の鳩山・小沢両氏の突然の辞任。あまりにもタイムリーでそのまんまなので驚いています。