「晩 夏」 小林 ふく子
蝉しぐれ止んでそれぞれ元の位置 袋 井
約束の重さ風鈴鳴りもせず
拾いきれない夏がキラキラ落ちている
立秋へ風が詩人になってくる
「にわか雨」 林 二三子
カラカラの畑潤うにわか雨 富士宮
にわか雨忘れた人を思い出す
にわか雨一寸嬉しい雨宿り
にわか雨だったか子等の反抗期
「暑苦しい」 谷口 さとみ
かたっぱしかける息子のかき氷 伊 豆
似合わない社則どおりのクールビズ
ドライブで自作の歌を歌う彼
ごってりとシェフが手がける冷奴
「 夏 」 濱山 哲也
犬は舌わたしは腹を出して夏 つがる
夏の日の盆地は鍋になっている
虫網で夏を生け捕る半ズボン
幽霊もしょせん季語ですカキ氷
「浴 衣」 森 だがやん
恰幅が良すぎて部屋を尋ねられ 島 田
夏祭り浴衣美人で目の保養
風呂上がり浴衣で将棋夕涼み
若者の浴衣着姿色香なし
「花 火」 稲森 ユタカ
点火した僕のハートが弾けそう 静 岡
花火師の汗と努力が空に散る
はじけだす花火合図に燃える恋
楽しみを残していたら湿気てた
「花 火」 松田 夕介
横も見て花火ばかりを誉めないで 牧の原
酒浴衣 更に花火でご満悦
夢のよう実った恋がさめてゆく
も~イヤと思わずこぼす月の道
「そしてそして」 新貝 里々子
カタカナ語気取りすぎてはいませんか 袋 井
理数系の説明書だな飲み込めぬ
来世が身近になってくる怖さ
そしてそして時間は止まらないのです
「自 由 吟」 内山 敏子
茄子の花千にひとつの無駄が無い 浜 松
家計簿の片隅にある妻の愚痴
お調子に乗って漏らした隠しごと
こちらから詫びてはればれ口げんか
「幸いにも」 増田 久子
ペアなんて真っ平一つだけを買う 焼 津
中肉で中背で貯金ずっとゼロ
詐欺らしいものは来たことない電話
酔いざめの水のうまさを知りません
「雑 詠」 西垣 博司
戒名のひとつひとつにあるドラマ 静 岡
おかしいな予定通りにいくなんて
二人居てテレビ以外の音が無い
ライバルの憎まれ口が心地よい
「暑 い」 井口 薫
物忘れ暑さのせいにしてウフフ 袋 井
心頭滅却古希の宿題終わらない
暑くても体重計は嘘言わず
気休めに石灰を撒く惚け予防
「子 沢 山」 寺田 柳京
暑いのに親へひっつく子沢山 静 岡
奨励金欲しくて産んだ訳じゃない
踝の深さへ子等を解き放つ
母親の手提げに綳帯キズバンド
「夏 祭 り」 大塚 徳子
転寝に電気ショックをかけないで 仙 台
饒舌な口には蟹の当てがいい
ノリノリの軽さで話すマニフェスト
夢すくう金魚を掬う夏祭り
「ふるさと」 深澤 ひろむ
ふるさとへ素顔のままで逢いに行く 甲 府
古里へ続く空です手を合わす
清貧に生きて休まぬ母の独楽
ふるさとの風は昔を語らない
「終 活」 成島 静枝
転居先神戸遊びに行きますよ 千 葉
終活は娘の街へお引越し
遺言書セット買おうか図書カード
生命線長いが周り片づける
「窮 屈」 岡村 廣司
善人と言われりゃこの世窮屈だ 焼 津
パトカーが後へつくと窮屈だ
窮屈になった洋服だけ残り
あれこれと入れるな柩窮屈だ
「自 由 吟」 荒牧 やむ茶
吸血鬼 君恋し キンチョーの夏 小 山
借りぐらししている方が威張り出す
いいかげんいつの日からか好い加減
自分史の起源求めて吾亦紅
「愛ひと夜」 戸田 美沙緒
手拍子を打って雨天をやり過ごす さいたま
満月が裏階段を見張ります
プロローグちょっとそこまで仇討ちに
愛ひと夜指紋だらけの滑り台
「 道 」 山本 野次馬
蛇行した痛みは知らぬ土踏まず 函 南
石垣の道に落ちてる歴史本
逃げ道も鞄に詰めるプチ家出
Uターン出来ない道へまた進む
「無 題」 毛利 由美
若いっていいな浴衣にビーサンで つくば
虫よけのスプレーをして夏祭り
拉致されたわけじゃないよね高齢者
捨てたのか捨てられたのかホームレス
「我 が 家」 栃尾 奏子
おかえりが温い我が家へ急ぐ帰路 大 阪
お鍋コトコトただいまを待ってます
おかえりと言われて肩の荷が落ちる
ただいまと寝顔にそっとキスひとつ
「フルーツ」 藤田 武人
待ちわびた完熟の実を奪われる 大 阪
誰もかも武蔵気分でスイカ割り
ボーナスにデザートメロンある家庭
完熟の楽しみ鳥に奪われる
「雑 詠」 松橋 帆波
哲学を言う面倒な秋の恋 東 京
押入れに隠しておこう抱き枕
膝小僧擦りむくほどに好きでした
雨宿り 淫らなことを考える
「雑 詠」 川村 美智代
信号をきょうも渡って生きている 静 岡
夏祭り浴衣の金魚はねている
窓の外けんかのシャツは肩を組む
それぞれの窓 それぞれの窓の中
「ド ラ マ」 真田 義子
方程式で明日は誰も解けません 仙 台
夢あって心が丸くなるドラマ
青空にひまわり描いた夏休み
ハッピーな気持ちにさせているドラマ
「 夏 」 提坂 まさえ
スイカ食べ円周率で種をはく 静 岡
一匹になって気楽な婚活魚
まだまだともう使い分けサングラス
遠花火振り返る時さようなら
「雑 詠」 石上 俊枝
不景気で腹まで響く花火見る 静 岡
夏の恋線香花火似る思い
彼の名をこっそり窓に書いて消し
人生も楽もつかの間青黄赤
「忍 耐」 鹿野 太郎
一日の汗を労う妻の酌 仙 台
黒光りする職人の玉の汗
御焼香そっと背中を押す背中
門限をじっと堪えている親父
「サマーラブ」 萩原 まさ子
忘れないドドンと上げて終わる恋 静 岡
現代っ子浴衣姿のはみ出足
バスの窓消えかけているラブの文字
頭寄せ議論白熱金魚たち
「孤 鳥」 斉尾 くにこ
青空に浮いて危険な生返事 鳥 取
永遠に語りあってる君となら
物語消し流れ星飛んでゆく
籠の中入りたがっている孤鳥
「 海 」 石井 昇
自分史に積木一つは残したい 蓮 田
海はねじれて人間が踊り出す
仇討はおれにさせろと海が鳴る
鼻ぐすり効いているのか浪静か
「着 メ ロ」 酒井 可福
着メロが祭り好きだと言っている 北九州
着歌でこの方ならと決めました
会議室社長の音に苦笑する
着メロの音にあの人好きになる
「ぬくもり」 鈴木 恵美子
ぬか味噌をかき回す手が母を恋う 静 岡
濡れ縁も朽ちて遥かな日を想う
ぬくもりを求めて小さき愛拾う
頼られている倖せを知る背中
「 道 」 安田 豊子
ペタル踏み行ける私の医者通い 浜 松
三叉路で明るい方の道を選る
遠回りしたから解る近い道
駅までの道でやる気が起きてくる
「い い 話」 鈴木 まつ子
身にまとうまた美しき藍浴衣 島 田
殿方が老いてますます意気盛ん
年寄りの火あそびやはり酒のせい
輝いた昔もあったいい話
「待 つ」 薗田 獏沓
待ちぼうけ影が本音を吐いている 川根本町
人間は所詮ハチ公には勝てん
待つことの楽しさ知った恋をする
ふる里の満天の星待っている
「ブーメラン」 鈴木 千代見
つまづいた石けって身にふりかかる 浜 松
たそがれの空に向かってまたあした
愛犬が素直にハイと返事する
ただいまの肩にストレス背負ってる
「 音 」 芹沢 穂々美
痒い耳かいても噂聞きにくい 沼 津
歯みがきの音で試した婚活日
フレーズを短く切った夏の歌
水洗の音も違って倦怠期
「日 常」 川口 のぶ子
あじさいの雨を恋しく待ちわびる 藤 枝
ミニ畑のきゅうり三本えびす顔
焼き芋のほのかな味が懐かしい
風邪ひいてなかなか咳がとまらない
「雑 感」 川口 亘
浮き草は逆らいもせず水に添う 藤 枝
見馴れては居ない筈でも知った絵馬
何気なく栞に見とれ絵が浮かぶ
体力にものを云わせた刻は過ぎ
「雑 詠」 飯塚 すみと
黄金比何かヒントをつかみたい 静 岡
通販の中身に妻がほくそえむ
つっけんどん答えたあとに調子でる
上等な和菓子のれんに隠れてた
「受 動 態」 瀧 進
向う脛蹴られてファイト点火する 島 田
自惚れの出鼻を挫くローキック
プライドの顎砕かれるハイキック
叩かれて明日へのパワーフルチャージ
「階 段」 中矢 長仁
少しずつ登って来たがまだ途中 愛 媛
階段は苦手だ膝が笑うから
天国へ階段なんて登れない
天国もバリアフリーでなら行ける
「雑 詠」 滝田 玲子
日焼け止め入れて財布を入れ忘れ 浜 松
新都心タワーがのびて新名所
情報の巷アンテナよく伸びる
また一つ老舗の灯り消えてゆく
「思い出の夏」 畔柳 晴康
軍服で機銃掃射を受けた夏 浜 松
玉音と一日遅れ聞かされる
敗戦を悲喜交り合う十五日
やっとこさ復員すれば家は焼け
「雑 詠」 多田 幹江
傘を出て羽を休める浮動票 静 岡
話題振りまくおじぎ草の会見
世を忍び溶ける食品添加物
痩せた包丁研ぎ過ぎたせいかしら
「平 和」 森下 居久美
平和への祈りよ届け千羽鶴 掛 川
甦る被爆ピアノのセレナーデ
三原則母は平和を祈るだけ
語り継ぐ過去こそ平和へのバトン
「国 盗」 山口 兄六
時の鐘あの日の菓子が甘いまま 足 利
ハタミ ミツユビ青梅既にばれている
嬉しそう密かにキョンが跳ぶベッド
カンタンベンリ切り札いつも探し中
「猛 暑」 増田 信一
猛暑にはクールな人が好きになる 焼 津
猛暑でも心の氷溶かせない
厳冬か猛暑か選べハムレット
猛暑でも着る物要らぬ良いとこも
「雑 詠」 小野 修市
勿体ない任期を残したった席 静 岡
俄雨やらずの雨と早合点
ごっつあんがまわしとまげにしみている
前世のつけを払って身が軽い
「まつりごと」 永田 のぶ男
星空に政治不信の雨が降る 静 岡
借金を政治の知恵で減らせゴマ
変革はしあわせかいと自問する
将来の日本を憂う高い円
「花 火」 尾崎 好子
わぁ花火夜行列車の拾いもの 藤 枝
ナイヤガラ迄は行けない此の桟敷
花火にはドン夢がある華がある
終演の音だけ花火腹に据え
「パスワード」 中野 三根子
パスワード父ならきっと山と川 静 岡
パソコンを開いて今日も考える
パスワード昔の彼のバースディ
パスワード忘れて頭まっ白け
「 薬 」 薮﨑 千恵子
くたくたと暑さに負けている私 焼 津
なまっちゃう体に喝を入れましょう
お医者様ください元気出る薬
じんわりと漢方薬の出す威力
「自 由 吟」 中田 尚
ハーレムの朝の王様目はうつろ 浜 松
校門が深呼吸する夏休み
山門をくぐると空気凛とする
伸びすぎたキューリ 使いすてカイロ
「のんき節」 長澤 アキラ
憂鬱を薄める妻ののんき節 静 岡
二人っていいな加減のヤジロベエ
あの世までもう少しだと気合い入れ
少しだけ縺れる足で坂下る
「二 枚 舌」 池田 茂瑠
鬼の面使って負けが混んできた 静 岡
貸せません器用な二枚舌だから
向けてやる悪の滴る笑顔だが
女ですパンを押したい指がある
「一人ぼっち」 川村 洋未
数かぞえ私の分は無いと知る 静 岡
手をかけて作る御飯がかたくなる
つぶやいた言葉に刺がささってた
透明のカーテン引かれ追い出され
「完 全」 高橋 繭子
山んばも遊びにやってくるお盆 大河原
憎しみはもう掃除機で吸ったから
サボリ魔は完全犯罪にむかず
たらこ食べ『腑抜け』の『腑』を注入す
「あ そ び」 勝又 恭子
いらいらは発散まるく生きている 三 島
うれしさを隠しきれない今日の虹
えんりょなどいらない距離になりました
おもいきり泣いて明日はきっと晴れ
「自 由 吟」 真理 猫子
幸せのうしろを跳ねる目玉焼き 岡 崎
ほんとうの事を言うため歩き出す
調味料なしで語れる間柄
足元が笑い上戸になってくる
「静 岡 弁」 佐野 由利子
おまっちと静岡弁も板に付き 静 岡
散歩道百円玉で旬を買う
赤い爪敵に回すと恐ろしい
身の恥を笑い話にして聞かせ
「自 由 吟」 高瀬 輝男
チアガールの応援欲しい過疎の村 焼 津
面白い奴が最近見当らぬ
この小さい野の花までも陽の恵み
世の移り見ている屋根の多弁過ぎ
「老 化」 望月 弘
思い出す種子がひそんでいるトイレ 静 岡
CTに脳の萎縮をばらされる
大丈夫忘れたことを忘れてる
飲み込んだ言葉が消化されてない
「1980の夏」 加藤 鰹
赤鬼の子等が花祭りに浮かれ 静 岡
ざわわざわわ 南の島からの手紙
朽ちた船から北海の大漁歌
夢を飛ばそうオーバー・ザ・ギャラクシー
顧 問 吟
「自 由 吟」 柳沢 平四朗
落陽の一樹にすがる終の蝉 静 岡
子も他人思案の腕を組み替える
真四角な顔が答えを明日にする
忠告は過去を煮詰めた味でくる