「縁 の 下 の 守 護 神」

 

去年の七月某日、結構長生きして、僕ら夫婦を支えてくれた愛犬が死んだ。

指折り数えて、今から十七年前の春のこと。息子が、運よく志望校に合格し、お祝いムード満杯の時、友人が突然、生後間もない彼を連れて来たのだった。

聞けば、迷子の子犬だという。近所を探しても飼い主が見つからない。自分ちにも犬がいるので飼うのは無理。悩んだ末、ウチに連れて来たのだと言う。

「どう?一人息子はいなくなるのだし、二人っきりってのも淋しいだろうから、この際飼ってみては?」

僕は諸手を挙げて賛成だったが、なにせ、世話をするのは同居人だから、決定権は彼女にある。彼女はきっと反対するだろうと思ったが、意外や意外、彼を抱き上げて「飼う、飼う」と叫んだのには驚いた。子犬ってめんごいんだよねえ。元々、二枚目でもあったし。

その前年の夏、ひょんなことから、子狸を飼ったことがあった。息子の好きなイギリスの歌手《エルトン・ジョン》に因んで、《エルトン》と名付けて、仲良く遊んだ。その後すぐ、子狸エルトンは死んでしまったが、この子犬がなんとまあ、狸に瓜二つなのだ。

「あらまあ可愛い。狸そっくり」なんて、散歩の途中でよく言われた。そこで、彼に聞いてみた。

「お前さあ、ひょっとして、あの狸のエルトンの生まれ変わりなんじゃないのか?」

彼は、僕の目をしっかり見つめて、ウン(ワン)と頷いた。これ、ホントですよ。

その証拠(?)に、僕が買ってきた犬小屋には目もくれず、縁の下に潜り込み、ねぐらにしてしまった。

器用な人は、犬小屋も自分で作ってしまうらしいが、僕はまったく駄目。ある時、同居人に洗面所の上に棚を吊ってと頼まれて、やったにはやった。

次の日、仕事から帰ると、棚が一発で落ちてしまったとプンプンしている。僕もつい、言い返した。

「落ちた?あんた、ひょっとしてモノ乗せたでしょ。それはいけない。モノを乗せたら、そりゃあ落ちるわ」

彼がいなくなって、丸一年が過ぎた。毎日の彼との散歩もなくなり、かつ還暦ということもあってか、あっちこっちにガタがきはじめた。彼は正真正銘、僕の守護神だったのだと、今頃になって気づいた。