「自 由 吟」 真理 猫子
ストーブのやかん相手に語りだす 岡 崎
大失敗した時用の伊達眼鏡
こたつまで追ってきそうな雪うさぎ
アクセルがかじかんでいる月曜日
「 豆 」 鈴木 千代見
落花生殻をむく音きりがない 浜 松
福豆を朝昼晩と食べている
祝宴を鬼たち外でやっている
納豆の長く糸引く腐れ縁
「自 由 吟」 内山 敏子
優劣を言うから風が尖り出す 浜 松
その先は聞かない方が良い話
生き抜いた自負が戸惑う物忘れ
宝石へ女心がつい動き
「自 由 吟」 寺脇 龍狂
行くとこも来る人もなくお正月 浜 松
MR耳と頭がわるいだけ
生命線短い方が長く生き
嫁ぐ娘がやがて嫁がす母となる
「考 え る」 岡村 廣司
条件が良過ぎりゃ何故と考える 焼 津
考えておきますなんて逃げられた
春までに殺し文句を考える
どんな事考えるのか死の間際
「初 心」 石田 竹水
闇を抜け水平線の陽を浴びる 静 岡
有頂天初心忘れて七転び
最初はグー 其の儘グーの悪い癖
七転び初心忘れた走り過ぎ
「やがて…」 小林 ふく子
生きざまを写して重い落ち椿 袋 井
それからの花の命を惜しむ風
プライドの帽子を脱いでやがて春
気ぶくれた心にやがて春が来る
「 白 」 安田 豊子
純白の富士へまばゆい初日の出 浜 松
プラトニック白いまんまの花しぼむ
腑に落ちぬ意地が白黒つけにくる
七十の余白を埋める旅をする
「お 正 月」 村越 精也
元旦や妻の包丁また響く 静 岡
淋しそう賽銭守るガードマン
お年玉親族一同額協定
年賀状嫌な奴だが字が上手い
「文 学」 南 天子
文学は樹海と同じ迷路です 焼 津
文学を好きという人福の顔
文学は輝く空の星のよう
ひらめきで浮ぶ一句は霧のよう
「 正 」 深澤 ひろむ
何かある妻の正座に身構える 甲 府
正確な鼓動で登る古希の坂
消しゴムが吐く正論を消したがり
正義感少し零して輪に染まる
「若いイコール老い」 新貝 里々子
百八つ煩悩はまだ発芽中 袋 井
輪になれば老いも笑いの種になる
郷ひろみの若さがとてもいじらしい
柴田トヨさんにつづけと皆その気
「雑 詠」 滝田 玲子
ロボットも過労で休暇届け出す 浜 松
一年がやたらと早い年の暮れ
面会に点滴お供そろり来る
まだ生きるつもり五年の日記帳
「待 つ わ」 増田 久子
閉店の日の開店を列で待つ 焼 津
コラーゲン寄る年波が無視される
寝不足を埋めた診察待ち時間
徘徊と似てる日が来るウォーキング
「腕くらべ」 加茂 和枝
新しい夢は見つけた一歩から 岩 沼
泣き笑い元気な体自慢です
今年こそ苦手なことに再挑戦
お日様と今日も一日腕比べ
「初 笑 い」 濱山 哲也
人よりもシキタリの数多い村 つがる
おごられる額に応じて慰める
祖父いわく齢をとってはいけないよ
来世は美女に抱かれる犬がいい
「福 袋」 毛利 由美
丼をかきこみお正月準備 つくば
年賀状仕分け作業を子に頼む
切実な就職祈願書いた絵馬
福袋一種ばくちのようなもの
「春待ちて…」 栃尾 奏子
春までは待ってと愛を泳がせる 大 阪
春間近 子等の縄電車が温い
アンドウトロア早く履きたいトゥシューズ
野苺を食み初恋をする私
「自 由 吟」 山本 野次馬
自叙伝を語ると荒海へ戻る 函 南
定年後客間の花がひらかない
百薬の海は底知れずに深い
戸籍簿を切って野心の鬼になる
「雑 詠」 松橋 帆波
人型に凹んでしまう抱き枕 東 京
凸凹の隙間は妥協しておこう
言い訳のように煙草を吸う男
指と指絡めて湿度百の中
「若 返 る」 鈴木 恵美子
娘の服がぴったり決まり若返る 静 岡
興奮と緊張続く趣味の会
まだ若いそんな言葉にだまされる
男には負けぬビールの一気飲み
「ひとり時間」 斉尾 くにこ
朝の四時ひとり時間の旅に出る 鳥 取
食虫植物にこにこと咲いている
ストローで好きなとこだけ飲みましょう
お正月雪の布団にくるまれる
「自 由 吟」 戸田 美沙緒
ゴミ箱にされた気分で愚痴を聞く さいたま
子守歌いびつな月がやっと寝る
フラスコの底で女が眼を覚ます
水面の綿雲ひとつ食べてみる
「工場見学」 井口 薫
ロボットが主要ポストに就いている 袋 井
生産ライン人も機械もみなパーツ
目標の重い数字が追ってくる
出来たての土産まぶしく拝受する
「私 小 説」 真田 義子
運命を変えてみたくて渡る橋 仙 台
冬の星座に助けられてるひとり旅
ゆったりと時が流れる私小説
春が来る幸せ旅に出るつもり
「見―つけた」 荒牧 やむ茶
悩ましくも嬉しくもある恋見つけ 小 山
大掃除妻のへそくり見―つけた
盗み食い猫に見られてから子分
母の影 見つけてホッとする故郷
「祈 る」 藤田 武人
南無南無と唱え紅葉の手を合わす 大 阪
諭吉さん賽銭箱に入れ拝む
親子鷹願いはひとつ流れ星
神棚に供え祈れどクジ外れ
「見 る」 薗田 獏沓
賀状来る親しくしたい通知です 川根本町
メモ見てちゃ相手の心掴めまい
嫁ぐ娘をじっと見ていた庭の桐
見る位置をずらし柔和な顔になり
「 嘘 」 瀧 進
嘘八百ならべ真を煙に巻く 島 田
愛ゆえの嘘に閻魔も目を瞑り
躓いて嘘が擦り剥く膝小僧
爺婆の財布が孫に見栄を張る
「夫 婦」 大塚 徳子
心にも筋肉つける好奇心 仙 台
パンジーの赤白黄色自己主張
さまざまな馬鹿をしながら人になる
生きているだけで歴史のある夫婦
「新 春」 畔柳 晴康
空っ風背を押し呉れる初詣で 浜 松
金釘で遠慮もせずに書く賀状
神ほとけ人も笑顔のお正月
里帰り満員となる兎小屋
「自 由 吟」 鹿野 太郎
追い風を呼ぼう献血バスを待つ 仙 台
またぶれているのに舵へしがみ付く
童話本読んで理系の水を飲む
クレヨンの大きな夢に縋り付く
「雑 詠」 川口 亘
なけなしの財布はたいて世辞を買う 藤 枝
遠耳は見当違いの話する
押せば避け引けばあご出す老いの坂
手拍子に調子も出ない下戸自在
「雑 詠」 成島 静枝
プッツンの音へ振り向く物忘れ 千 葉
ケータイが現代人にしてくれる
着脹れの袖の粗相を叱らない
関東だけ晴天申し訳けがない
「 暖 」 奥宮 恒代
お守りにいつも持ってるホッカイロ 森 町
膝小僧抱いて寝るのも孤独ゆえ
笑い声たててコーヒー沸騰中
こわばった肩にスープが効いてくる
「 輪 」 酒井 可福
体力の限界だから輪から抜け 北九州
定年できつい首輪を外される
MR輪切りで僕をさらけ出す
輪から抜け頑固一つを悔やむ日々
「手 毬 唄」 鈴木 まつ子
手毬唄弾めば手毬はね返り 島 田
手毬唄今に伝わる京なまり
しぞーかの路地の奥より手毬唄
手毬唄まばらな日々の物忘れ
「正 月」 川口 のぶ子
初詣で神に居場所をそっと告げ 藤 枝
正月の唄が昭和をカムバック
映像で地球の不思議かいま見る
初物の喜び皆と分ち合う
「ほろ酔い」 中矢 長仁
初詣お神酒飲んだら夢の中 松 山
ほんのりと染めた風情に惚れ直す
美女見れば久米の仙人でも落ちる
ほろ酔いで度を過ごささぬ山の神
「自 由 吟」 飯塚 すみと
八十才夫婦で散歩みち愛し 静 岡
孫の声うなぎ屋スミに花が咲く
排他的二班が避ける一班を
走る人見る人今日も白い富士
「自 由 吟」 恩田 たかし
寒くてもヒーター出さず過ごす夜 静 岡
寒すぎて部屋でジャンパー着てすごす
お布団に入れば電気節約に
一月の八日にヒーター初火の出
「 冬 」 小野 修市
ストーブが定位置につき冬来たる 静 岡
干柿は粉脹く前につきばまれ
段々と夫婦で炬燵でなくなり
雪積もるニュースを見ては首ちぢめ
「舅を送る」 尾崎 好子
本当におんぶに抱っこだった親 藤 枝
天の采配良くもそこ迄百四つ
見栄っぱり見え見えだから身が縮み
一切を息子辛くもやってのけ
「ひとり言」 薮﨑 千恵子
反論もできず悔しいひとり言 焼 津
ひとり言いって元気を取り戻す
どうでもいい自慢話は聞き流す
暗闇を抜け明日への夢つなぐ
「ま、いっか」 谷口 さとみ
目に何かするとお口が嫉妬する 伊 豆
親と視た水戸黄門を孫と視る
ケーキ屋と花屋はアレとコレで買う
またオデンだけど作ったのは私
「早 春」 森下 居久美
居住まいを正して蕾春を待つ 掛 川
モノクロにそこだけ春のお振り袖
春を呼ぶ水仙凛と風の中
大人への階段華やぐ袋帯
「牧 之 原」 山口 兄六
走ったり跳んだり君に会う月夜 足 利
母の月覗きかつてのバニー達
牧之原よっこらせっと兎汁
うさぎ跳び父さん昔悪だった
「手 帳」 中野 三根子
秘密です手帳の中にある世界 静 岡
まっ白なページをうめる旅の夢
少しだけ見栄を張ってる予定表
新しい年と手帳はわくわくと
「イ ワ シ」 多田 幹江
千葉沖のイワシが骨が硬そうだ 静 岡
生簀ごと買われて餌になるイワシ
田作りと呼ばれイワシも郷に入る
群れの隅のイワシ言いたいことがある
「一匙の毒」 池田 茂瑠
この仮面外せば炎消えるかも 静 岡
背伸びから私の誤算始まった
追伸へもう一匙の毒を盛る
曖昧な言葉で一度目は拒む
「お買い物」 川村 洋未
デパートで今日は一日大人買い 静 岡
意気込んで試着重ねて疲れ果て
お気に入りお値段だけが邪魔をする
試着して買わずにおいて未練有り
「上を向いて歩こう」 松田 夕介
強がりの演技でいけるハリウッド 静 岡
影送りしてこれからは前を向く
青空で自分の影が笑ってる
励ました言葉に俺も奮い立つ
「新 年」 佐野 由利子
幸せな余生を願う初詣 静 岡
新しい波のうねりにピョンと跳ね
回り道もうしてられぬ歳となり
ライバルに負けた悔しさバネとする
「旅 立 ち」 稲森 ユタカ
サヨナラは言わない未来見えるから 静 岡
思い出が残るこの場所踏みしめる
足跡に思い出詰めて旅に出る
いざ進む光が射したあの場所へ
「お 正 月」 永田 のぶ男
早起きで屠蘇の美味しい家族愛 静 岡
手を繋ぎ若い二人は神に鈴
賽銭を気張り今年を賭けてみる
三が日雑煮に飽きた散歩道
「雑 詠」 増田 信一
お正月天気良いけど先行きが 焼 津
仏様無縁社会に活入れて
はやぶさの塵を社長に飲ませたい
仕分け人その上を行くお役人
「雑 詠」 長澤 アキラ
薄い本何度も厚く読んでいる 静 岡
車座の酒 何故か安らぐ
股間から覗いた空は広かった
無職でも朝の仕事はたんとある
「つぶやき」 勝又 恭子
若いねと言われるほどの年になる 三 島
ささやかな抵抗だけど自己主張
贅沢な時間空間映画館
何気ないつぶやきからの打開策
「自 由 吟」 林 二三子
田舎住み季節の風を感じてる 富士宮
同じ風感じた友と里の駅
また一軒空き家になった過疎の村
客も子も帰り女のお正月
「健康チェック」 望月 弘
信管は抜いたと医者がほくそ笑む 静 岡
胆力の裏側にある不発弾
良性のままで冬眠させてある
柿渋が任されている加齢臭
「雪の夜の幻想」 加藤 鰹
雪しんしん君のメールを待っている 静 岡
雪が降る音という音を消し去って
ドッキングしましょう寒い夜だから
君を恋う この冬一番の寒さ
顧 問 吟
「雑 詠」 柳沢 平四朗
巣立つ日の会話かなしい程の距離 静 岡
秋刀魚焼く煙日銭の汗を知る
鬼の目のしずく拳がうろたえる
花道に欠けたボタンが落ちている
「自 由 吟」 高瀬 輝男
家族団欒この一刻はゆずれない 焼 津
答案紙時間を盗む手はないか
仙人に経験させたい就活苦
食べるのは惜しいケーキの芸術味