「月曜の朝の雨」 斉尾 くにこ
愛に触れ二十四時間沸くポット 鳥 取
遠巻きに花と酔ってる君を見る
やみそうもない月曜の朝の雨
ひとりきりの野原ぷあっと吐いた恋
「風 車」 森下 居久美
満腹でないと不安な貯金箱 掛 川
詰め込んだカバンからはみ出すシッポ
間抜けだなオデコにこんな虫刺され
頑張っていますと肩の湿布薬
「かける子供達」 森 だがやん
伝書鳩親の間を子が駆ける 島 田
パパとママどっち強いか子が賭ける
育つ程家族団欒子が欠ける
棄てた夢諦めきれず子に賭ける
「文 字」 濱山 哲也
下手よりも読めぬ達筆なお困る つがる
手帳には人生訓と親父ギャグ
戒名に絵文字がはいる日も近い
砂浜でみつけた昔書いた文字
「お 葬 式」 井口 薫
お葬式百も二十歳も同メニュー 袋 井
級友とお久しぶりはまた喪服
この国に牛がこんなにいたなんて
路線検索天国駅と打ってみる
「不 況 風」 毛利 由美
証明写真七〇〇円の顔が撮れ つくば
美容院に行って後悔して帰る
手作りのケーキは手作りの見た目
閉店があって開店ない不況
「瞑 想」 鹿野 太郎
補助輪が外れて風とハーモニー 仙 台
家事手伝いまかり通った世を惜しむ
植えるまでこの世の風に晒してる
はけ口に踊りまくった青春譜
「カレンダー」 成島 静枝
赤いペン夫の予定奉り 千 葉
青ペンの妻の予定が止まらない
好きな事しようと言ったのは貴男
カレンダーこの次の世は誰と居る
「 影 」 石井 昇
葛藤のブランコ揺らす影法師 蓮 田
過去の影消して女の雨上り
三コマ目どんでん返しある浮世
無位徒食残り少ないページ数
「ポップフード」 新貝 里々子
あらまあとごちそうサラダニース風 袋 井
若鶏の香草焼は思い出添え
本日のキッシュ路地裏探訪記
コーヒーはエスプレッソよ日暮れ坂
「値 引 き」 西垣 博司
店員が美人値切れる訳がない 静 岡
値切らずに買って女房にどつかれる
ていねいな応対値引き切り出せず
やんわりと赤札ですと断わられ
「父 の 日」 酒井 可福
造られた妻の笑顔は気味悪い 北九州
勘違いするな奥さん父の日だ
小遣いをせびった後のプレゼント
父の日は感謝の言葉だけでいい
「め が ね」 川口 のぶ子
色めがね心の中をのぞき見る 藤 枝
怪しいと見られているか色めがね
色めがね別の世界をかいま見る
変装のつもりか目立つサングラス
「ちょっとの愚痴」 増田 久子
レストランめしは無いですライスです 焼 津
お役所にタイムカードはありますか
顔を見るまでは電話の声に惚れ
神の気でおわすつもりか天下り
「お酒のCM女優たち」 荒牧 やむ茶
いいちこで若かりし恋懐かしむ 小 山
ひと時の愛を求めてハイボール
黄桜の妻の襟足つい見とれ
肉食女子ハイテンションでビアホール
「柑橘系の君」 松橋 帆波
颯爽と柑橘系の君がゆく 東 京
坂の町でした市電の恋でした
手をつなぐ二人は空気清浄器
みんな幸せだったらいいな過去のひと
「きっかけ」 栃尾 奏子
きっかけを待ってる人並みの野心 大 阪
きっかけが無いのかガード堅いのか
欲しいのはきっかけ覚悟決めている
恋のドア開けてみせます鍵尻尾
「歴女たち」 提坂 まさえ
行くぜよと昼食にでる歴女たち 静 岡
苦しゅうないわらわが嫁になってやる
いつだってニュースソースはうちの姉
新人のマニュアル通り熱い春
「器さまざま」 川村 美智代
生真面目を笑われている素焼き壷 静 岡
信じ切る器でいたい姥桜
春キャベツ言えないことを切り刻む
マグカップ耳を持たれて愚痴を聞く
「ひまわり」 小林 ふく子
手の中で光り続けている蛍 袋 井
訳あってやせる薬を飲みました
七月を描く青色足りなくて
ひまわりの笑顔にそっと礼を言う
「任 す」 鈴木 恵美子
Uターン子の逞しさ背を拝む 静 岡
最後尾任されている山男
責任を任され年に負けそうだ
舌出してちゃっかり決めた委任状
「四季の恋」 鈴木 千代見
たんぽぽの綿毛のように根を下ろす 浜 松
あさがおの夢の双葉に虫が食う
コスモスの聞き上手にはつい本音
ぼたん雪はげしい恋をつれてくる
「自 由 吟」 芹沢 穂々美
火を点けてしまった恋の後始末 沼 津
席空けて魔女が座るの待っている
済んだことたくさんあってまだ生きる
後悔のルーペが凸になっている
「乾 く」 奥宮 恒代
一ヶ月引き算できていいとする 森 町
気まぐれなカラスへ機嫌また合わす
鼻の乾き菜っ葉ばかりのウサギです
湿度ゼロ愛の巣箱は乾いてる
「雑 詠」 滝田 玲子
コピーした別の私が世界駆け 浜 松
子守歌忘れましたとベビーカー
野次飛ばす赤じゅうたんを踏む議員
靴下の穴から明日をのぞかれる
「停年おやじ」 村越 精也
孫の知恵金持つばばが好きになり 静 岡
妻出勤「いってらっしゃい」やっと慣れ
一人一品 妻に引かれてマーケット
毎日が多忙楽しと見栄を張り
「雑 詠」 飯塚 すみと
バイパスが蟻のごとくに出来てくる 静 岡
模型ショー智恵の勝負が人を呼び
難点を無くしたいとも思わない
張本人素知らぬ顔で消えてゆく
「自 由 吟」 戸田 美沙緒
目を伏せて私はどうせ籠の鳥 さいたま
錠剤を呑むたび安心する右手
泣くたびに蚕になっていく貴女
抱くことを知らずに咲いた萩桔梗
「夢 中」 萩原 まさ子
あなただけほかの異性はヒト科ヒト 静 岡
配線のし過ぎで頭誤配線
ポチとジョン話長引きふて寝する
プチプチをつぶしはじめて小半日
「足 も と」 石上 俊枝
心配か私の影かいる主人 静 岡
足元を見られ慌てて忍び足
光る靴ご機嫌いかがウォーキング
子育てが終わり足元介護くる
「自 由 吟」 松田 夕介
焼き肉屋笑顔の奥で目が光る 牧の原
夏の雲見上げた俺の春はどこ
大空に揚げるプライド喧嘩凧
新児童見留めた車優しくね
「位 地」 山本 野次馬
立ち位地をずらして明日を確かめる 函 南
腰の位置下げて大地へ根を生やす
天辺で孤独な椅子が待っている
ジーパンの穴から覗く世界地図
「夫婦で余生」 中矢 長仁
度忘れは夫婦でうつるものらしい 松 山
金婚もとおに過ぎたらもう余生
丸儲けの余生は趣味に明け暮れる
最後には幸せだったと言うつもり
「虹 の 橋」 真田 義子
残り火が揺れたあの夜の月見草 仙 台
引き返す勇気をくれた虹の橋
生きるため涙を拭いてくれた空
奥の手をまだ使わないかたつむり
「ドッキリ!」 鈴木 まつ子
目の前でまともに見れぬEカップ 島 田
急停車信号青で横切られ
暗がりでガングロ娘とすれ違い
超ミニで男の視線もてあそぶ
「湯楽っくす」 瀧 進
SLについ立ち見する露天風呂 島 田
混浴の美人夢見るひとり旅
フルムーンときめきもなく夫婦風呂
メタボ腹アルキメデスの原理知る
「時 間 給」 岡村 廣司
時間給の分真剣にする作業 焼 津
コンベアーに牛耳られてた時間給
いい汗をかいたが時給安かった
時は金やっと気付いた時間給
「 柔 」 薗田 獏沓
産声をガーゼにくるむナースの手 川根本町
見習いの握った寿司が型崩れ
草書体息づかいまで柔らかい
自家製の堆肥で育つキャベツ玉
「文 字」 大塚 徳子
レシピに無いチョチョイと入れる母の愛 仙 台
人間が大きく見えた太い文字
言の葉の母が種蒔く雑記帳
蟹工船とパートのくの字ダブってる
「 夏 」 藤田 武人
グラウンドに汗と涙が染みてゆく 大 阪
イガ栗が夏をバックに良く映える
今度こそ僕の一打で甲子園
晴れ雨と暦に留め書く日記
「強 気」 安田 豊子
やるがたない岐路で地団駄踏む独り 浜 松
甘えたいでも甘えない自我がある
とりあえず新茶もてなす差し向かい
幾ばくの余生まとめるレール敷く
「自 由 吟」 内山 敏子
チャンネルがいつもと違う旅の宿 浜 松
いち早く友から届く旬の味
竹の子のご飯に弾む親も子も
物忘れ拾い拾われ金婚期
「同 級 生」 畔柳 晴康
同級生みんな揃って歳をとり 浜 松
才嬢も点と線とで杖を持ち
訃報欄また級友の名を見つけ
年金を粗飯で済ます食事会
「ひと休み」 加茂 和枝
死んだふり上手に出来て生きている 岩 沼
本気で力を貸してくれた人
まず体動かし心弾ませて
ひと休み命が若くなりそうだ
「思 い 出」 川口 亘
禁酒した筈でも夢で二日酔い 藤 枝
気休めに書き込んでみる朝のうた
ついでにはとても出来ない手術前
控え目が板につく頃よく忘れ
「自 由 吟」 林 二三子
無人駅また一つ増えさびれてく 富士宮
エコバックファッション性も備えてる
物忘れまたかとあまり気にしない
余分には買わず冷蔵庫もエコで
「踏ん張って」 多田 幹江
スタンバイ人という字を頬ばって 静 岡
ベンチ入り君の出番はきっとある
老人を三人抜いただけのこと
踏んばって踏んばって咲くはぐれ草
「待 つ」 永田 のぶ男
採血にみんな静かに時を待つ 静 岡
根が生える待合室の長い椅子
待たされてもう怒られず笑っちゃう
寿命のびそれに等しい待ち時間
「自 由 吟」 長澤 アキラ
四本の手でも掴めぬものが有る 静 岡
間違えた一歩で続く海の道
本物の言葉木綿の肌ざわり
老いてゆく音か海鳴りが聞える
「尻 尾」 池田 茂瑠
虹を描く全て未熟の青色で 静 岡
神経を媚びる尻尾に集めてた
痩身へ作り笑いの荷が重い
思い切りハードル倒し謎を解く
「追 い 風」 石田 竹水
病院の友達も居て元気です 静 岡
力の差 僕は追い風待っている
考えが甘く山葵を塗りたくる
手短かに話せば返事長くなる
「 影 」 稲森 ユタカ
さよならを忘れた影が去っていく 静 岡
陽を浴びて影も突然踊りだす
照れる君 影を重ねて手をつなぐ
シルエットだけが素敵で騙された
「キ ヨ」 山口 兄六
隠し持つ毒消えるまで眠りこけ 足 利
湯殿だねシャーッと尖るのは遊び
肩のぼり遥かヨセミテへと続く
求愛の歯型が付いたラ・フランス
「砂 丘」 真理 猫子
大きめの影で駱駝は残業中 岡 崎
ストレスを仕舞う駱駝の二瘤目
カーテンも駱駝がひいて行く砂漠
豪快に笑う駱駝を飼っている
「お 弔 い」 谷口 さとみ
蟹出して娘の彼をやりすごす 伊 豆
アラビアンナイトほんとの夢はどれ
葬儀屋がそれはさておき松竹梅
S席で観たあなたにはわからない
「初 恋」 佐野 由利子
知らぬ間に好みが同じ歳となり 静 岡
ゆっくりと女の香り消えていく
胸底にまだ燻ぶっている未練
初恋はいまも綺麗でいて欲しい
「自 由 吟」 増田 信一
満ち足りぬ隙間に出来た悪い顔 焼 津
筋書きを作った後に穴ぼこが
傘差しても防げない人の口
文句言うその前にまず一呼吸
「雨 の 日」 中野 三根子
彼に逢う雨の日だってルンルンと 静 岡
雨の夜たまにはゆったりピアノ弾く
のんびりと雨にぬれたい時もある
うれしいなほめられた日はぬれてみる
「遠 い 雲」 小野 修市
遠い雲故郷の街その下か 静 岡
無理をしてちりぢりの入道雲
有名も無名も街の灯がともる
あっという間の雲 人の一生も
「らくらく」 尾崎 好子
草取りは雨のち晴れの早い朝 藤 枝
重い物らくらく持ってくれる孫
難問をらくらくクリア若い脳
グッドバイらくらく此の世から消える
「自 由 吟」 薮崎 千恵子
雑踏の中で自分を見失う 焼 津
主導権嫁がじわじわ握り出す
百回も聞いたと口を封じられ
美しい嘘であなたのハート抜く
「 耳 」 中田 尚
福耳が延命措置でたれ下がる 浜 松
雑音の中の吉報のがすまい
耳鼻科医の耳はどこまで地獄耳
事件事故聞いてる耳は不幸だな
「寒 い 夏」 川村 洋未
厚着してクーラー効かし寒い夏 静 岡
夏本番温度差異常ビルの街
クーラーの風直撃でカイロ当て
皮下脂肪骨の上にもほしい夏
「人さまざま」 高瀬 輝男
あしたへの期待ドラムは低音に 焼 津
雨続き狂うもならず鰯焼く
温室の煽動ナスが冬実る
ジョーカーを握る反論などしない
「誕 生 日」 望月 弘
誕生日めでたく後期高齢者 静 岡
それなりの祝いが届くバースデー
キャンドルをローソクと呼ぶ誕生日
めでたいと思うめでたい人になる
「夜の緞帳」 加藤 鰹
いい時代だったと今だから思う 静 岡
群れなして生きる 笑っていなければ
損得を考え恋のエピローグ
祭り笛止むと陰口だけ聞こえ
顧 問 吟
「人 品」 柳沢 平四朗
如才ない世辞へ握手も拒めない 静 岡
色めがね隣合わせの真逆かも
歓心を買う人品のつけ黒子
真四角に生きてお一人様になる