「初秋に想う」 鹿野 太郎
切り替えて段々埋まり出す手帳 仙 台
いつ見ても微笑んでいる砂時計
温かいスープ記憶の隅にある
大津波芭蕉は何と詠むだろう
「な ま え」 藤田 武人
考えに考え抜いた名を授け 大 阪
売名と言われるくらい目立ちたい
スーツから源氏名メモを見つけられ
意に添わずふんころがしと名付けられ
「祖父からの手紙」 栃尾 奏子
ラブレター入れた村外れのポスト 大 阪
大胆に葉書で恋文が届く
文箱に眠っています青林檎
老眼鏡かけて思い出なぞろうか
「就 職 難」 井口 薫
エクセルをかじる来世の就活へ 袋 井
ふり仮名がないと空気が読めません
ITの海で日に日に深海魚
秋風へ影がだんだん重くなる
「自 由 吟」 滝田 玲子
ファッションの先端をゆく宇宙服 浜 松
灰皿に話し忘れた捨てゼリフ
説教は聞けぬ親指よく動く
チン終えてママチャリ走る保育園
「晩 夏」 斉尾 くにこ
溶けながら時間旅行のバスタイム 鳥 取
あいまいの海に溺れて漂流者
またあしたスイカが落ちる日本海
泥水をかぶったねって干している
「流 れ」 石田 竹水
負けるなと力を呉れたヨイトマケ 静 岡
怖いほど仕合せ過ぎるふたり旅
小賢しい甘く見られた皺の顔
途切れてる生命線が気に掛かる
「雑 詠」 西垣 博司
型くずれそれも妖しい魅力とか 静 岡
やかましいわけだ蝉の字口ふたつ
酒飲める家系でホントありがたい
青と赤十五の十で車庫に着き
「自 由 吟」 深澤 ひろむ
失敗をする度はげてくるメッキ 甲 府
本心は吐かず問わずのいい仲間
程々の愛を明日の糧にする
喜びの余韻に浸るロゼワイン
「 風 」 馬渕 よし子
ふる里の風に体は浄化され 浜 松
風向きが怪しくなって逃げ帰る
突風が来そうで心閉じておく
追い風へ乗れずにまたも運を悔い
「アドリブ」 酒井 可福
アドリブが効かぬ亭主の嘘あばく 北九州
練習と違う単語に目が踊る
プロポーズ期待と違って来る返事
初舞台台本に無い劇になる
「残 暑」 新貝 里々子
ふと吐らすあなたの愚痴は燃えるゴミ 袋 井
吐き捨てた言葉ガレキの山の中
暑いねと交わす言葉はペットボトル
思い出も捨てればそれはただのゴミ
「大 花 火」 毛利 由美
誕生日忘れないのに歳忘れ つくば
忘れん坊と認知症とは無関係
子を持たぬ夫婦もいいなあと思う
東北に思いをはせる大花火
「君のこと」 濱山 哲也
年取れど若気の至りなぜ残る つがる
神様も一緒にするとすぐ揉める
きれいごとばかり言う人は汚い
君のこと変なやつだと褒めてたよ
「道 草」 真田 義子
にぎやかな声で目覚める旅の朝 仙 台
道草をしながら歩く六十路坂
行き先は雲に任せるひとり旅
清純でけがれを知らぬ百合の花
「術 後」 鈴木 千代見
放射能見えてきそうな目の手術 浜 松
眼帯がとれて掃除機忙しい
一筋の光 希望と期待のせ
愛しいメガネ引出しに眠らせる
「保 険」 成島 静枝
死ぬ時は死ぬと保険の電話切る 千 葉
震災で保険会社の正誤表
究極の保険育てたドラ息子
家族葬ぐらいはいける保険金
「 影 」 薗田 獏沓
逃げて来たつもりが影はついて来た 川根本町
本物に影がすり寄る内緒言
走り去る笑い上戸の影ふたつ
何時の世も偽物に見るうすい影
「じじいの詩Ⅱ」 村越 精也
覚えなしどこで打ったか痣がある 静 岡
健診の前日だけは散歩する
事実だな夫が多し訃報欄
七十路保険解約旅に出る
「自 由 吟」 川口 のぶ子
青や赤庭のレタスが勢揃い 藤 枝
鳩一羽庭を朝からコツコツと
日溜りに猫のしっぽが揺れている
廻り道したらまたもや迷い道
「雑 詠」 川口 亘
音もなく忍び寄るのか招かざる 藤 枝
手の混んだ芝居もどきに遊ばれる
線香の煙が鳴らす警報器
ひと握り不心得から来る悲劇
「信 号 機」 岡村 廣司
駈け出すか待つかと迷う黄信号 焼 津
黄信号見抜かれますよ性格を
信号の無視を園児の眼が見つめ
無視されりゃ怒鳴りたかろう赤信号
「風 評」 瀧 進
報道の自由風評醸し出し 島 田
生齧り知識操るシーベルト
風評のくしゃみ連発ツイッター
風評の千里駆けゆくモンスター
「にてんでゅういてぃねん、なとぅ」 横田 輪加造
イコカやらスイカパスモがややこしい 東 京
阪急電車映画の色に乗りに行き
学校がもうメルヘンの宝塚
甲子園客も陽射しと戦わせ
「雅 号」 中矢 長仁
雅号はと聞かれ困った決めてない 松 山
とりあえず実名少し変えて号
出世魚のように雅号も伸びて行く
吐いた句は自分のものだ自分銘
「自 由 吟」 阿部 闘句朗
人間を掴み損ねた逃亡者 横 浜
愛すべき自分が見えて来ない道
再生の尻尾に詰める防腐剤
人間の尻尾掴んだ逃亡者
「 音 」 山本 野次馬
レコード盤の溝に落ちていた夏 函 南
問いかけにいつも無口なモニュメント
正論を吐いたトイレの流し水
まんねりの生活に多少のノイズ
「自 由 吟」 内山 敏子
さわやかな空気を乗せて過疎のバス 浜 松
チマチョゴリ着て旅先の輪にとける
打ち水へ涼気ただよう裏通り
ハミングの妻が光って何かある
「匙 加 減」 大塚 徳子
母さんが育ててくれた匙加減 仙 台
昵懇の友に従う喫茶店
半信半疑 新米止めて古米買う
都合よく耳が起きたり眠ったり
「雑 詠」 畔柳 晴康
節電と見ないやらない怠けてる 浜 松
禿頭値引きをしない理髪店
草取りの爺ちゃん遊ぶ蝸牛
ネクタイを少し派手めに祝辞のべ
「秋 の 月」 小林 ふく子
いい季節ギックリ腰も立ち上がり 袋 井
失敗をひと飲みにする秋の空
涙腺がゆるんでしまう秋の月
ひょっとして月がわたしに声かける
「自 由 吟」 石上 俊枝
招かざる珍客風に放射能 静 岡
路線バス視線集める昼下がり
愛の色迷彩服が頼もしい
ヒラヒラと隠す体型チェニックで
「帰 り 道」 提坂 まさえ
その昔机に彫ったラブレター 静 岡
知ったかぶりヘチマが笑う帰り道
嘘が下手ホントも言えずマグカップ
いい人に見えてしまったすりガラス
「ハーブティー」 萩原 まさ子
雨だれを上手に弾ける私です 静 岡
窓際に移り季節が見えてくる
もう一つ足せば積み木は倒れない
午後三時ちょっと気どってハーブティー
「舞 台」 安藤 千鶴子
ほんのりとシャンプー香る女学生 静 岡
部屋の隅ほんのり照らすLED
クールビズおNEWのシャツでオシャレだね
子が巣立ち母から女へと着替え
「自 由 吟」 野中 とし子
世渡りも衣かぶってすいすいと 静 岡
ネグリジェか若者たちの夏衣裳
かき揚げの衣たっぷり食べられず
衣子とは親の想いの名前です
「 衣 」 野中 雅生
坊さんの夏の衣は涼しそう 静 岡
美しい衣をつけた人に会い
暑い夏ぬくい衣はごめんだね
衣子とはよくも名付けた我が娘
「自 由 吟」 宮浦 勝登志
席ゆずりゆずられ和むバスの中 静 岡
アルバムのセピアに浮かぶ二人雛
朝飯の濃い茶に今日のさわやかさ
鏡台に今残る祖母の頭油あと
「雑 詠」 川村 美智代
カラコロと浴衣はずめば下駄が鳴る 静 岡
離すまいセミの抜け殻大樹抱く
濡れ衣にくちなしの花白く咲く
天ぷらの衣はだけて茄子の肌
「次男6歳ソフトボールデビュー戦」 森 だがやん
バット持ちふらふら打席立つ息子 島 田
死球受けピッチャー睨む目に涙
盗塁のサイン見てすぐ走り出す
挟まれて「ぎゃー」と逃げてくライトまで
「寄 り 道」 恩田 たかし
おしゃれする娘を見るとおませさん 静 岡
登下校寄り道をしたボーリング
寄り道でポリに捕まるネズミ捕り
関節痛何故かサプリを薦められ
「自 由 吟」 南 天子
ぶらり旅あの世も一寸見て来たい 焼 津
また散った木の葉が今日も秋だなあ
むりをして明るく笑うやめとこう
本の虫其の一匹になっている
「 城 」 安田 豊子
こじんまり主と生きて灯を点す 浜 松
あばら屋を癒してくれる四季の花
椿咲く里の城跡人恋し
落城の哀れ苔むす野面積み
「メニュー」 鈴木 まつ子
初生りのキュウリで母の酢味噌和え 島 田
日替わりの弁当並ぶお品書き
独り居のらっきょシャリシャリ茶漬け風
年金の枠で畑の野菜鍋
「雑 詠」 飯塚 すみと
耐震がようやく終わり座禅組む 静 岡
豹がらがたまに安らぐ言葉出し
狭い土地解体工事に懸ける人
党首選メリーゴーランドと冷やかされ
「老 成」 奥宮 恒代
オロコロとあたふた色が好きになる 森 町
好きだなぁバックかき混ぜる高鳴り
ごまかしたポーカーフェイス悪くない
補聴器を外すと会話弾みだす
「ほりえもん」 尾崎 好子
東大を卒業しない破天荒 藤 枝
球団を一つ買おうと名乗り出る
あの時代純ちゃんだって肩を組み
神様が呉れた時間をどう使う
「揺 れ る」 中野 三根子
心まで揺れてゆらゆら追っかける 静 岡
もう少しあと少しです曲り角
イヤリングちょっぴり揺れて女です
のきしのぶ風鈴の音が風に乗る
「自 由 吟」 小野 修市
ちゃぶ台に畳でワイン似合わない 静 岡
泥かぶり匍匐前進する覚悟
散髪の椅子で政治の機知を知り
一人居る茶の間静かに外は雨
「ゴ ー ヤ」 林 二三子
採れ過ぎたゴーヤの貰い手を探す 富士宮
来年は風船かずらで日除けする
目残しのゴーヤ恐竜にも見える
ゴーヤの強さ雑草にも負けず
「バ ラ 園」 池田 茂瑠
糸屑の中に隠れていたヒント 静 岡
一本の虹終止符で塗り潰す
誘惑の風カーテンを捲ります
謎多いバラ園育ててる女
「野 菜」 多田 幹江
陽を嫌う無人売り場の青菜たち 静 岡
独りでは生きて行けないカイワレ菜
野菜たっぷりちゃんこが生んだ名力士
天高し惚け茄子だっておいしいよ
「雑 詠」 永田 のぶ男
臆病が時効になって大富豪 静 岡
黄砂など切って切れない間柄
前世で定めあったか蝶結び
神様のくれた臓器を惜しまない
「自 由 吟」 森下 居久美
あかとんぼ祭り囃子を連れてくる 掛 川
三分がこんなに長いロスタイム
流行を気にも留めずにローカル線
気が付けば父まで後期高齢者
「夏の思い出」 渥美 さと子
思い出とまた父母が来た盂蘭盆会 静 岡
蚊遣り火の渦にまかせた夕涼み
一品は妻の味方だ冷奴
節電と箸でゴーヤに借りが出来
「ユタカの秋」 稲森 ユタカ
様々な欲望乱す秋の風 静 岡
陽も暮れて大人の時間長くなる
溜め込んだ食欲が出て激太り
年末に備え節約しはじめる
「モノマネ」 荒牧 やむ茶
ロボットには真似の出来ない心意気 小 山
巻き舌でサザンを真似てラリルレロ
真似事の親孝行で懺悔する
好きだった人の癖真似だけ残る
「 秋 」 真理 猫子
お願いとお祈り連れて秋が来る 岡 崎
怪獣のカタチの汗がひいてゆく
さみしいと黄色い声で鳴くちょうちょ
合鍵はカボチャの種のあるところ
「いわし雲」 松田 夕介
仰ぎ見たヒコーキ雲よどちらまで 静 岡
実りの秋体重計の目もたわわ
夏祭り誘えないままいわし雲
伝統の一戦わりとやる野球
「オール3」 中田 尚
いつかまたイモが主食になる怖さ 浜 松
オール3出世の道は程遠い
オイ総理今年の暮れはアナタかい
生きている老廃物がちゃんと出る
「こわいよぉ」 谷口 さとみ
手が痛い夕べの記憶まるでない 伊 豆
手切れ金多いともっと追ってくる
手鏡を脅して今日も化粧する
色紙からはみ出すほどの力士の手
「占 い」 勝又 恭子
抜け殻のわたしが映るガラス窓 三 島
スキイライスキ花びらは5枚だけ
ゆで玉子つるんとむけて今日は吉
不幸ぶるにはあまりにも青い空
「モンキヨコ」 山口 兄六
エビうみゃー父の鼻息スマル亭 足 利
モンキヨコ姉の甲羅を乗り越えて
夜魚が彷徨い火照るロマンの湯
味噌ピーを炒れど帰らぬ人が居る
「相 性」 増田 信一
相性は少しずれてる方が楽 焼 津
相性が良すぎこの頃鼻に付く
お似合いの夫婦でないが共白髪
相性は顔の次だと言う娘
「肥 満」 佐野 由利子
ジャンプするバッタ羨むお爺さん 静 岡
試着室ウエストだけが儘ならず
誰よりも存在感のある肥満
ケータイと悪戦苦闘一ヶ月
「雑 詠」 長澤 アキラ
棒引きにするには少し生臭い 静 岡
水っぽい一日だった発泡酒
地デジでも写りの悪い民主党
牛丼の残りでタバコくわえてる
「 月 」 川村 洋未
猫二匹私は一人月を見る 静 岡
おぼろ月消えそな夢をくるんでね
電線に引っ掛かってる月と泣く
窓で見るまんまるの月針で刺す
「雑 詠」 薮﨑 千恵子
追っかけは飽きた情熱失せたから 焼 津
飛び出した句があちこちで挫折する
人の真似ばかりしていて芯が無い
Uターンしようか父母が気にかかる
「余 生 へ」 望月 弘
中年をトリミングして高齢者 静 岡
着心地が脱ぎ心地へと脱皮する
物持ちがよくて流行遅れ着る
余生から尻尾の生える気配なし
「秋だねえ」 加藤 鰹
海は時化 野田丸きっと還らない 静 岡
秩父へと行こう心が乾いたら
生りすぎたゴーヤ乾燥ナマコめき
もうちょっとこっちへおいでいい月だ
顧 問 吟
「自 由 吟」 高瀬 輝男
日に三度勝たねばならぬ飯喰らう 焼 津
右脳好調俺は天才かも知れぬ
水害へ敗けずに叫ぶ土の声
咳き込めばピタリと止まる妻の箸