静岡川柳たかね 巻頭沈思考バックナンバー
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「 どんぐりの芽 」 戸田美佐緒

 選者って何?正体不明で謎めいて、不思議な魔法の杖を持っているとか、いないとか。
 その昔、他誌で題詠の選をするチャンスがありまして・・・。川柳大好き人間は何事も勉強と、来るもの拒まず選者のお役目を仰せ仕った。軽く興奮して、郵送されてきた封筒を開ける。ドドッと、投句用紙を台所のテーブルに広げて、それと気付いた。記名での投句だったかと。
記名選は作者の顔が覗くという事実が、ある意味弱点となる。心情的な優しさで右手と左手に迷いを乗せる時がそれである。右に傾く、左に傾く。
「広い範囲で共感した句を」、「投句者の気持ちを優先させて、一人一句を」等々。それも、ひとつの意見ではあるが、経験の浅い選者の役目ゆえ、参考までの意見に揺れて、投句の海でアップアップ・・・。ましてや、選者も人の子・・・、神さまではない。でも、それを言い訳にすれば選者の立場が崩れる。

 わずかなためらいが、どのようなものであれ、作品に妥協することは変な話であって、許されるはずもない。
 妥協とは、作者にも読者にも礼儀を欠くことである。それは同時に、選者自身の素質と品位を問われるものと自覚すべきことなのだ。ここまで書くと、苦笑される向きもあるかも知れぬ。が、選にあたっての厳しさは当然である。    
川柳は文芸である。作家の繊細な感性と向き合うとき、こちらも、まっさらな気持ちでいるのは普通なことではないか。
 (そうだまっさらでいいのだ)と思い至れば、急に気持ちも楽になり、元気に選を終えることができた。
 以来、機会があれば、(不思議な杖はなくとも)私らしい、立派な選をと心がける日々である。

 どんぐりの芽が生えている選者席      美佐緒 

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(2006/10/25(Tue) 22:21:57)

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