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野田気質 千葉県野田市 成島 静枝


 神奈川は足柄に住む友達から電話が掛かってきた。元勤務先の同僚で結婚後移り住んでいる。内容は地域でボランティア活動をしている会の旅行で野田のキッコーマン工場を見学に行く事になった。ついては昼食場所を探して欲しいという依頼だった。多分福祉協で市のバスを利用して来るのかも知れない。実際私達も同じような事をやっている。条件は@二十五人の団体でバスA見学は13時から予定B清水公園も有名(桜の百選)行ってみたいC帰りに浅草に寄りたいDパンフレット送って等々。早速リサーチ開始!キッコーマン見学コース「ものしり館」は我が家のすぐ近くにある。春秋の遠足シーズンには小学生の山が出来、少人数で見学できるので一般の人も良く来ている。しかし周辺は工場と倉庫なので昼食場所がない。まず清水公園のレストランに問い合わせてみた。人数分の席は用意可、お弁当は希望価格で作れるとのこと。街中の食事処はネットで検索、ついでに「ものしり館」を見ると、仕出し弁当の注文が出来、施設内で食べられるとある。これは知らなかった一番早いじゃん!調べた結果を3つの案にまとめて資料と地図、来る日が決まったら逢いにいくとコメントを入れ送った。訪ねてくれるのは嬉しい限り、楽しみが出来た。
 私は嫁いできた頃、この古い街が嫌いだった。高層ビルもなく駅を降りると醤油臭かった。典型的な企業城下町で、第1〜7工場が建ち並び、その周辺に職人町、近隣では一番栄えていた。醤油の歴史は江戸時代に遡る。キッコーマンは大正6年野田醤油(株)として出発し、商標は「亀甲萬」。昭和2年にキッコーマンと社名を変更している。義理人情に厚く、昔気質の仕来りが色濃く残り、しっかり守る姑がいた。なかなか馴染めない私はこれが苦手だった。いまも歴史のある建物や施設、レンガ塀と旧家が市内に点在、江戸川べりに宮内庁御用達の醤油を造る御用蔵(ミニお城)がある。
 こんな街に住んで四十年、住めば都になってきてしまった。今では都会にはない特徴のある景色がむしろ好きになっている。工場の原料サイロ、煙突、出入りする車、大欅の並木等々、機械化が進み匂いもあまり感じない(嗅覚も住み慣れたか)近年この古きを訪ねる人が増え「街ガイドボランティア」を頼んで散策している。カメラ片手に歩いている人も少なくない。小さいながら美術館ができ、梅原画伯の一点物もある。近隣の街に新交通網が出来、急激に発展していくなか旧態依然のこの街、これはこれでいいのかなと思うが商店街や市役所は「街の活性化」に躍起になっている。昔気質の姑が亡くなり、気がつくと娘に「古いねえ」と言われる自分が居た。思考回路もこの街にどっぷり漬かり、姑と同じ古くさい事を平気で言っている私に、根っこが生えたのかも知れない。



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(2008/09/29(Sun) 13:12:48)

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