静岡川柳たかね 巻頭沈思考バックナンバー
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ションベンのような句  静岡市  加藤 鰹

いきいきと死んでゐるなり水中花  櫂 未知子
いきいきと死んでをるなり兜虫   奥坂 まや
これは、少し前に盗作問題騒ぎとなった俳句である。結局、奥坂氏が櫂氏の元句を知っていたと認めたことで、句を抹消して一件落着となったのだが、俳句専門家からは「元々命のない水中花より、以前は生きていた兜虫のほうが写生として優れている。これは奥坂氏の本家取りである」といった意見が多く聞かれた。
しかし、川柳愛好家に「どちらの句が好きか?」と訊いてみると、殆どの方が水中花に軍配を挙げる。それは、カブト虫がまるで生きているようだ、には「自分自身」が不在であり、あくまでも客観的。それに対して水中花は自分の分身であり、「寂しい気持ち」の暗喩が感じられるからではなかろうか。
 川柳や俳句はたった十七文字で表現する《世界で一番短い詩》と言われる。(最近は佐藤美文氏の励行する十四字詩も盛んに行なわれているが)それ故に「同想句」「類似句」「盗作問題」が後を絶たない。
 特に川柳の場合は句会や大会などで「兼題」により作句する場合が多いので、たとえ小さな句会でも同想句が生まれやすい。選をしていて、一字一句違わない句箋に出くわすこともよくある。
 かく言う僕もこんなことがあった。
「空」(表現自由)という課題が出た大会での作句。
 空っぽのハートに響く雨の音
 という句を作ったのだが、大会には提出せずにいた。そして、他の人の入選句披講を聞いていたら
 空っぽの心に響く雨の音
という句が読み上げられたのだ。「ギョッ」とした。思わず呼名してしまいそうになった。(笑)
 しかし、僕はその句を出さなかったのだから、その作者が盗作した訳ではない。完全な暗合句である。
 その事を当時静岡市川柳協会の会長さんだった山田迷泡氏に話すと「オメ〜はそんなションベンみてえな発想の句ばかり作っているから他の人と似ちまうんだよ」と一笑されてしまった。言われてみれば確かにありふれた発想の句かも知れないなと反省した。
 愛知県の猛者、浅利猪一郎さんとお会いした時にも「鰹さんの句を見て、僕の句とよく似ていたから訴えようかと思ったことがあるんだよ」と笑いながら言われ、またまた「ギョッ」とした。そしてまた、最近川柳マガジンに出した句についても「この句は鰹さんの句ではないですね、落語家が喋っているのを聞いたことがあります」と匿名の手紙を貰った。(匿名はイケナイよ、謝罪も反論も出来ないじゃないか・・・)
「パッと思い浮かんだ句は他人もパッと思い浮かぶ句だから、捨てたほうがいい」とよく聞く。その辺りに注意しながら今後も作句をして行こう。
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(2009/11/07(Fri) 14:18:02)

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