静岡川柳たかねバックナンバー
トップページへ






霜石コンフィデンシャル81   高瀬 霜石

「ロボ・ナース」

《インプラント》なるモノをほどこしている人が、僕の回りにも数人いる。なにせ、あっちこっちにガタがきている年代だから仕方がない。
「口の中に、ベンツが一台入っている」と豪語する友人。それほどにジェンコ(お金)がかかるモノらしい。
僕は、奥歯に爆弾を抱えてはいるものの、三ヶ月に一度、歯医者さんで定期診断を受けているので、とりあえず、だましだましの現状維持だ。
僕の行っているO歯科医院は、それはもう至れり尽くせり。毎日、馴染みの可愛いおネエちゃん(歯科衛生士)が担当してくれ、好きな音楽をヘッドフォーンで聴ける。近くの椅子で、歯を削っているあの怖い音《ウィ〜ン》が聞こえないのも助かる。
99%痛くもなんともないのだが、でもあの椅子に座ると、どうしても緊張してしまう。トラウマってやつですか。きれいな看護婦さんが側にいて、手を握ってくれれば安心なのにと、行く度に思う。
人間じゃなくたっていいのだ。ロボットでいい。もちろん千円くらいのチップは払いますよ。《吉永小百合ロボ》とか、《松坂慶子ロボ》とかがいてさあ。
文芸春秋スペシャル2009季刊夏号「映画が人生を教えてくれた」(千円)に、読者と執筆陣の投票による「あなたが最も美しいと思う、魅了されたスターは誰ですか?」のアンケート結果が載っていた。
 日本の女優のベスト10をお知らせしよう。
@吉永小百合 A原節子 B高峰秀子 C夏目雅子 D岸恵子 E岩下志麻 F宮沢りえ G若尾文子 H松たか子 I松坂慶子
 投票した人の平均年齢は、A原節子を見る限り、僕(還暦)よりちょっと上かなあと思う。「永遠の処女」と呼ばれた彼女は、白黒スタンダード画面の、日本映画の黄金時代のスター。1962(昭和37年)に、42歳で自ら映画界を引退してしまった人である。僕は、残念ながら、ビデオでしか彼女を観たことがない。
 歯科医に限らず、病院に備え付けて欲しいロボットは、別に話しかけてくれなくていいのだ。ギュッと手を握ってくれるだけでいいのだ。
 「高瀬さん。今度、《松たか子ロボ》が入りましたよお。いつもの《若尾文子ロボ》よりは、新顔な分、割高だけど、どうします?」なんてね。
霜石コンフィデンシャル | Link |
(2009/11/07(Fri) 13:53:54)

霜石コンフィデンシャル80   高瀬 霜石

「クレイマー宣言」

オラの生業は、自動車部品商。自動車は生活に必要不可欠のモノであると同時に、環境にはとてもやっかいなシロモノである。
ことの発端は、去年の秋、商工会議所の創立百周年で市民会館へ行った時のこと。青森からおエライさんを乗せてきたであろう一台の黒塗り高級車。ずーっとエンジンかけっぱなしで待機している。役所ってこれだものなあと思い、窓をノックした。
「あんた。このイベントが終わるまで、ずーっとそうやっているんだが?」と聞いた。弘前公園のさわやかな秋空の下にもかかわらず、暑いからなどと言い訳をする運転手のネームプレートを見て驚いた。役所の車ではなく、青森の某タクシーだったのだ。
数日後、青森へ行った。偶然乗ったのがタクシーだったので、このことを問うた。「お客さん。それは会社に抗議しても無駄。なぜなら、その運転手はうちの幹部で、そんなオイシイ仕事は自分で取っちゃう人で、苦情は全てこの人の所に集まるわけ。自分で握り潰してオシマイ」とのたまう。
気になりだすと止まらない。大型店、デパート、ホテル、駅、夜の鍛冶町などで客待ちしているタクシーの長い列。100%エンジンかけっぱなし。側を通るとオエッとなる。
弘前のタクシー会社何軒かに、どうにかならないものか聞いた。答はおおむね一緒。「燃料高騰の折。エンジンはなるたけ切るように運転手にお願いしているが、正直、そこまでの管理はとても無理」とのこと。「お宅の経営のことはどうでもいいのです。こっちは排気ガスのことをいっているのですが」と喉まで出かかったが、あきらめた。
 こういうのを《暖簾に腕押し》とか《糠に釘》とかいうのか。いや、この場合は《馬の耳に念仏》というべきか。はたまた《馬耳東風》というべきか。どっちにしろ、自覚がまるでなく、すべて他人事だから始末が悪い。
北欧では、信号待ちでさえもエンジンを切らないと罰金だそうだ。
 タクシー会社に自浄力はない。運転手にも罪悪感なんてない。ただ、惰性のなせる業である。
 ここはやはり、商工会議所とか、法人会が音頭をとって(いい意味での圧力団体になって)大型店やデパートやホテルや駅のトップ人たちに決断(惰性の打破)を促すのがてっとり早いと思うが、読者諸兄は如何?
 思っているが、訴えるのはいかにも臆病とかいう人が大多数だろう。でも、一人よりは二人。二人よりは三人なのである。一人ぼっちで言い続けるのは、とてもくたびれる(コエグなる)のだ。援軍がほしいなあ。
 《排気ガスみんなで喋ればコエグない》と、オラは切実に思う。
 アッ、これは川柳ではないです。「標語」です。

霜石コンフィデンシャル | Link |
(2009/10/07(Tue) 13:51:23)

霜石コンフィデンシャル79   高瀬 霜石

「座敷オヤジ」

 「座敷ワラシ」の話は、皆さん知ってますよねえ。この座敷ワラシ(男の子です)、一般には、旧家に出没する子供の妖怪のことだが、一番有名なのが、岩手県二戸市にある金田一温泉郷の中にある緑風荘というところ。
 僕の高校の先輩でもあり、僕を川柳の道に引きずり込んだ拉致犯人(?)の渋谷伯龍さんに誘われて、そこに一泊二日の旅をしたのが、今回の事の発端であった。
 緑風荘という旅館は、とても古くて、とても大きい旅館。座敷ワラシは、その旅館の一番奥にある槐(エンジュ)の間にだけしか出没しないという。この部屋の予約は、なんと、三年先まで予約で一杯だというから驚いた。
 座敷ワラシの歴史は、今から660年ほど前(南北朝時代)に溯る。
ここのご先祖様は、南朝(後醍醐天皇)方に仕えていたのだけれども、北朝(足利尊氏)方との戦いに敗れ、落武者となる。そして、南部に落ちのびて来たんだと。 
時の当主には、6歳と4歳の2人の男の子がいたのだが、兄の亀麿(かめまろ)は病に倒れ、短い生涯をこの地で終える。その亀麿クンの霊が、奥座敷に棲みつき、「家の守り神」の座敷ワラシとなって、ときおり顔を見せるようになったんだと。
話は、実は、ここからが肝心。この槐の間に、立ち入ったり休憩をした人には―たとえ座敷ワラシと遭遇しなくても―幸運が訪れるということになっているのだから大変だ。
その証拠に、槐の間の四方は亀麿クンへの感謝のプレゼントでいっぱい。オモチャがいっぱいあるのは、けっして気持ちのいいものではない。
ところが、これは亀麿クンへの感謝のプレゼントだから、当然のこと新品。オモチャに霊気はこもっていないから、怖くはないのだが、見ると一瞬、ウジャラッとはします。
今回の旅では「座敷ワラシ」には誰も遭遇しなかったが、オラは、実は、ちょっと不思議な体験をしたのですよ。そして、その後、オラの身にとってもラッキーなことが起こったのですよ。紙面の都合で、詳しく書けないのが残念だけれども、これはホントのホント。
詳しい話を聞きたい人は、十一月一日の静岡国民文化祭川柳大会でぜひともお会いしましょう。まだまだオラには「ツキ」があると思うので、オラに触ったりすると、亀麿クンの御利益がアナタにひっついてゆくかもしれませんよ。
そうそう、それで、オラは今回のラッキー騒動の後、すぐ亀麿クンに、商売柄ミニカーを贈ったということを報告し、オラの「座敷ワラシ・リポート」とさせて戴きます。
※事務局より
霜石さんはこのほど第6回大野風柳賞(グランプリ)を受賞されました。本当におめでとうございます。


霜石コンフィデンシャル | Link |
(2009/09/07(Sun) 13:42:31)

 

Copyright © 静岡川柳たかねバックナンバー. All Rights Reserved.