「 地 中 海 的 食 卓 」 川柳の基本は「穿ち」。世の中を、こっちから見たり、あっちから見たりすることである。 川柳を長年かじって来たせいか、オラの臍もだんだんに曲がってきたらしく、夏に鍋焼きうどんが急に食いたくなったり、冬に冷やし中華が恋しくなったりする。 だからというわけではないが、夏でもよく湯豆腐をやる。でも当然、夏は冷や奴が基本だから、前菜が冷や奴で、メインディッシュが湯豆腐ということになる。 落語家の柳家小三治は「まくら」が長いので有名だ。 「まくら」「続・まくら」などという文庫本もあるくらいだ。その「まくら」の中だったと思う。彼が最近オリーブオイルに凝っているという話を聞いた。 彼がイタリアへ行った時のこと。レストランでたまたま向かい合った男が、いきなりテーブルの上のオリーブオイルの瓶を口に当てて、コポコポ飲み出したのでとても驚いたという。 日本だったら、大変だ。テーブルの上の醤油とか、ソースとか、酢とかをいきなりグビグビやられたのなら、小三治でなくとも目が点になるだろう。 オイルと名が付いているからつい誤解を招くが。種を搾った他の油と違って、こいつはオリーブの実を搾ったもの(果汁)だから、コポコポも無理のない話だと知って、彼の考えが180度変わった。以来、小瓶に入れてどこへでも持ち歩き、高座に上がる前にオチョコで一杯やったりもする(喉にもいい)のだそうだ。 オラはとても影響を受けやすいタイプ。早速いろいろ試してみた。冷や奴には、前回書いたように生姜がオーソドックスだけれど、たまにはさらし玉葱を乗せ、ゴマ油をタラリと垂らした中華風もやる。ただ、ゴマ油の量がすこぶる難しいのである。 その点、オリーブオイルはゴマ油みたいに神経をとがらせる必要はまったくない。間違ってドバッと入ってもなんら問題はない。勿論、タリラリランもよしだ。 ここに醤油をポタリで、百円の豆腐がアッという間に三百円の高級豆腐に変身してしまうのには驚いた。 かつて、地中海料理なるものを注文したことがあった。出て来たのは、普通の野菜サラダに、申し訳程度にオリーブオイルがチョロリかかったものだった。 最近、我が家の食卓に、夜七時をちょっと過ぎると、どこからともなく、地中海の風が吹いてくる。
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