霜石コンフィデンシャル63 高瀬 霜石
「 銀 座 の ペ ン の 物 語 」 二月の初旬、東京へ行った。たいした雪でもないのに大雪と大騒ぎしていた。毎年一回は降るだろうに、すぐ交通ストップだ、転倒、骨折だとわめく。都会の人には学習能力というものがないのだろうかねえ。 こっちは冬のプロ。厳重装備。日曜の昼に上野に着き、蕎麦を啜り、鈴本演芸場へ。二月号に書いた「紙切り」を手に入れようと思ったが、空振りだった。 鈴本を出たところに、ツタヤ(どこにでもある)があったのでつい入った。こういう所には、中古のCDやDVDがあったりするので、店員に尋ねた。彼は僕の顔をじっと見て、こう言った。 「あのー、アダルトの中古品は置いてないんですが」 「オラが、いづ、アンタにアダルトと言った?」 「エッ?フツーのですか?」「ンダよ!」 月曜の朝イチに人に会う予定だから、その日は無精髭だった。店員は、そんな僕の風体を見て、上野公園界隈のホームレス仲間とでも思ったのだろう。 その足で銀座へと向かった。週刊誌に、ファーバー・カステルなるドイツ製の鉛筆が使い易いと、写真入りで載っていたのですぐ電話したら、東北では扱っている店がないという。 上京したついでだもの、銀座の有名な文房具店、伊東屋へ行った。週刊誌に載ったせいだ。その鉛筆はほとんどが売り切れ。わずかに残っていた6Bと7B、 ―これくらいの濃さが実は川柳人好み―を買った。 外国製といったって、たかが鉛筆、安いものだ。ゴルフ好き、釣り好き、パチンコ好き、夜の街好きなどとは比べものにならない道楽(散財)である。 それを買った後、万年筆売り場を通った。それはそれはきらびやかな万年筆は、所狭しと並んでいる。 いったい誰がこんなン十万もする万年筆を買うのだろう、眼福とはこういうことをいうのかと、ボーッと眺めていたら、隣にスーッと美女が立ち、 「あのー、よろしければ、お出しいたしましょうか」 僕は一瞬言葉を失ったが、すぐ丁重にお断りをした。 上野のアンチャンと、銀座のネーチャンのこの差。これは土地柄のせいか。アルバイトと正社員の違いか。僕も商人のはしくれ。大いにベンキョーになった。
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