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まかない 浜松市 今井 卓まる

 十数年前(分かりやすくいうと、現在80キロ前半の僕の体重が60キロ台後半だった頃)、僕はとある鉄道会社で駅員をしていた。
僕の在籍していた鉄道会社では、まずは改札係という役職をクリアしなければ次のステップに進めない。  
 改札係の主な仕事は、切符の集改札と乗継清算業務、コインロッカーの集金、便所掃除などなど…。そのなかでも最も重要なのが『まかない』だった。僕がどんなに忙しい時でも「おい、今井、乾麺のうどん十二人分、茹でとけ!」という駅長の鶴の一声で、僕はいつも『まかない』モードになっていた。僕としては、お客様と触れ合いたかったので少々不満だったが、それなりの理由があったらしい。後々聞いた話だが、泊まり勤務の時の朝メシの僕の『まかない』の『うどんつゆ』が何人かの助役さんの間で密かに噂になっていたらしいのだ。
 僕は改札係として出勤した時には制服に着替える前に、まず初めにしたことは、『昆布と干し椎茸の水戻し』だった。これがあれば、その頃の僕の『まかない』は無敵だった。うどんつゆのベースとして使う他に、出し汁をとった後の昆布は刻んでスーパーで買ってきた漬物に振り掛ければ、手作り風の漬物になり好評を得た。たまには戻し汁を多めに作り、『和風カレー』なんてのも夕食メニューで作ってみたこともあった。
 さてさて『うどんつゆ』。胡麻油で生姜・長ネギ・豚コマ肉を鍋で軽く炒めた後に、出汁をとった後の昆布と干し椎茸を適当に刻み、戻し汁・醤油・みりん・乾燥ワカメ・粉末カツオだしの『半分の量』だけを一緒に鍋に加える。出来上がり寸前に残りの半分を入れることで、粉末カツオだしの風味が活きてくるのじゃ! 同時進行で乾麺のうどんも茹でているので、段取りが心配な主婦の皆様方もご安心下さい。あとは、茹で上がったうどんのぬめりを取りつつ水でキュキュッとしめて、熱々の『卓まる印の特製うどんつゆ』をかけて、至福の時を迎えるのである。
 主婦の方々と少しだけ違うのは、電車のダイヤに合わせて調理をしなければならないことと、段取りや味付けを間違えると、灰皿が飛んでくることも・・・。
 同じような要領で、大晦日の時には『お稲荷巾着の年越し蕎麦』を作ったこともある。ゆで蕎麦を入れた油揚げの巾着に、『卓まる印の特製つゆ』にかまぼこや銀杏、山菜などを加えた柚子風味のあんかけ汁をかけた単純な一品。これも好評であったが、僕は食べることが出来なかったのである。僕以上に食いしん坊な駅長が横取りしたのであった。駅長のバカぁ〜!
 それでも、月に2〜3回は僕を飲みに連れて行ってくれていた、ハンプティー・ダンプティーみたいなお茶目な駅長が大好きだった。


[49] (2009/07/29(Tue) 13:58:53)



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