「名前にまつわるエトセトラ」 高瀬 霜石
前号で、最近の子供の名前はとても読めないよと書いた。どんな塩梅か、中級コースからご覧くださいな。 毬愛(まりあ)、茄恋(かれん)、鈴蘭(りら)、どうです。読めましたか?では、いよいよ上級コース。 答えは末尾に載せるので、推理してみて下さい。 @実里樹 A志桜里 B紅良 C美櫻 D果夏
子供に名前を付けるとなると、そりゃあ力が入る。 僕もついつい、三十年前のことを思い出していた。 第一案は「大学」。昔から子供の名前には。「大」か、「学」の一字を入れたいと思っていたので、まずはこの名前を、共同製作者に打診してみた。 「子供にそんなプレッシャーを与える名前は、絶対にイヤです」と、彼女は言い放った。 「堀口大学という詩人がいるけどさ。確かに、彼の生家が、東京・本郷、東大の赤門前にあったからそう名付けられたらしいけど。でもこっちは《大いに学ぶ》と理解すればいいべさ。大学と名前が付いても、たいしたことはないべさ。『東大』だったら、そりゃあプレッシャーだろうけどさ」と諭したが、けんもほろろ。 第二案は「大吉」。僕の父の名前が「栄吉」なので、一字貰っての命名だ。そしたら、「おみくじみたいでヤーダ」と言う。ウーム、無礼者めが。 第三案は、「一学」。僕の本名は「一博」なのですよ。「どうしてアンタが考えるのは、みんなチャンバラ関係なのよ。『一学』って頭に二挺拳銃差して、最後に殺される悪者じゃないのさ」と、カンカン。 オイオイ、頭に拳銃は差せないべさ。確かに、忠臣蔵の清水一学は、鉢巻に手裏剣差して、二刀流で闘うけどさ。「シェーン」に出てくる、ジャック・パランス扮する黒ずくめの二挺拳銃の悪者とごっちゃ混ぜになってるべさなんて言うと、火に油を注ぐことになる。 大石内蔵助が「ほのほの方。まずは、ご舎弟《大学様》をもって、浅野家再興を幕府に言上つかまつらん」なんていう台詞が、頭の片隅にきっとあったのだろう。 近衛十四郎(松方弘樹のお父さん)主演のテレビ時代劇「花山大吉」も、記憶の底にあったのかもしれない。 女の勘は、げに恐ろしきもの。かくして、僕の息子の名前は、すこぶる平凡な名前に落ち着いたのだった。 @まりな Aしおり Bさくら Cみお Dかんな
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