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「おせちスター・ウォーズ」



高瀬 霜石


 お正月となれば、おせち。おせちのトップ・バッターとなるとまずは無難に、出塁率の高い(つまり老若男女に好まれる)カマボコだろう。いぶし銀の風格が漂う黒豆は二番バッター。栗きんとんや伊達巻きは、根強いファンもいるのでやむなく下位打線に入れよう。そして、期待の四番バッターは何と言っても、その存在感の大きさ、天下の「数の子」である。
 よその家へ年始に行って、いきなり重箱の中から数の子だけをパクパクやってはいけない。周囲への配慮がまるでない、極めて協調性の低い人だというレッテルを、ペタリと貼られることだろう。
 しかも、数の子の咀嚼には結構時間がかかる。ずーっとポリポリやっているのも品がない。でも、食べたい。僕はこういう時、隅っこの一番小さいかけらを常に狙うようにしている。我ながら賢いと思っている。

たいがいにしろと数の子引ったくり

これは古川柳(江戸時代の句)。昔も今も、数の子はおせちの花形スター。そういえば、「黄色いダイヤ」なんていう別名まであったと思い出す。ところが、ドッコイ。答えはまるっきり正反対なのだから驚く。
 江戸では、数の子はきわめて安直な塩蔵食品だったのだそうだ。そもそも、音を立ててものを噛みながら酒を飲むというのが、江戸っ子の美学に反した。
 酒の肴は、腹に溜まらない(塩辛などの内臓加工品や、味噌の類い)ものや、音もなく噛める(刺し身、豆腐など)ものであった。となると、数の子は野暮の代表みたいな食材だ。
 では、何故数の子が引ったくられたのか、である。数の子がもったいないのではなく、これがあるとご飯(白米)がすすみ過ぎて困ってしまうからであった。そういわれると、塩ジャケの尻尾とかがあるとついご飯をもう一杯となるものねえ。
 当時の日本は、玄米食が主流。しかし、江戸だけは違った。裏長屋に住む熊さんや八っつあんですら、銀シャリこと、ぴかぴかの白米を常食としていたという。
 黄金色の豪華さと、子孫繁栄のめでたさを買われて、野暮から四番バッターに大出世した数の子クン。
 誰の作かは忘れたけれど、こんな句を思い出した。

奥歯から数の子が出る二日酔い

 あー、ヤバチイ。飲み過ぎ、食べ過ぎにご注意あれ。

[10] (2006/02/08(Tue) 19:24:03)



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