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霜石コンフィデンシャル55     高瀬 霜石

「 八 月 の 妹 」
 青森県はあいも変わらずの不景気だが、トヨタの好
調のお陰で愛知県の求人倍率は三倍だとか。いやはや。
 名古屋の結婚式はとても派手で有名である。荷台が
ガラス張りになっているトラックに、嫁入り道具を満
載してやって来るという。
 名古屋の知人に聞いたらば、何しろ箱もの好きなの
がこの地の特徴で、お隣の嫁さんはティッシュペーパ
ーのダンボール箱入りやトイレットペーパーまで山積
みして来たというから、やっぱり本当なのである。
 僕の息子の嫁さんは豊橋出身。当時、こりゃヤバイ
と思ったが、名古屋は尾張で、豊橋は三河で、言葉も
習慣もまったく違うと聞いてホッとしたものだった。
 名古屋に「なかはられいこ」という、川柳も文章も
上手で、おまけに美人でスタイルもいい女性がいる。
 いつ、どこの川柳大会だったかもう忘れてしまった
が、一緒にコンビニに入って、彼女が食べたそうにし
ていたアンパンを買ってやったことがあった。
「兄ちゃん。ありがとう」と彼女は言い、以来ずーっ
とそう呼ぶので、まるで寅次郎と妹さくらのような川
柳界愚兄賢妹になってしまったのだった。

夾竹桃なにが正義でなにが悪   なかはられいこ
 もともと、花鳥風月に疎いせいもあるが、ずいぶん
と長い間、彼女のこの句の意味が分らなかった。
 ある日、雑誌をめくっていたら「広島市の花ー夾竹
桃」とあり、オヤと思い、調べてみた。
 原爆で汚染され、焼け野原になり、七十五年間は草
木も生えないと言われた広島の町に、最初に咲いた花
が夾竹桃なのだそうだ。この花が、広島の人々に、そ
して日本国民に、大きな勇気を与えてくれたことは言
わずもがなのことだ。
 妹れいこは、去年の八月、北野岸柳氏主催の「川柳
フォーラム」の特別選者として招かれて、青森にやっ
て来た。僕が会場に行くと、ロビーにいた彼女が走り
寄って来て「兄ちゃーん。久しぶり」と叫んで、ガバ
と僕に抱きついた。受付にいた女性達は、名古屋女の
派手なパフォーマンスに目を丸くしていたっけ。
 この号が出る頃の八月三日。僕は「川柳展望全国大
会」の選者で大阪にいる。彼女も選者だ。また大阪の
会場で「兄ちゃん」「おー妹よ」と抱き合うだろうが、
会場のオバチャンたちは目もくれないはずだ。

[26] (2007/09/26(Tue) 08:38:05)



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