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霜石コンフィデンシャル56     高瀬 霜石


「 イジワル・マニュアル 」

 僕の会社は「弘前卸センター」内にある。開業当初は四十二社あったのだが、今はもう十七社になってしまったので、僕もやむなく理事の一員になっている。
 ここには簡易郵便局があって、先日も本局に提出しなければならない書類に、署名・捺印をしたのだった。
 しばらくして、事務長が、あの時の書類に不備があったので、申し訳ないがもう一度来て欲しいと言う。
 新しい書類に向かって僕はごく普通に、漢字で自分の名前を書き、(ふりがな)とあったので、自分の名前の上に「タ・カ・セ」とルビを振った。
 突然、女性事務員が「キャー!」と悲鳴をあげた。事情をよく知らない人が側にいたのなら。僕が右手でサインをしながら、左手で彼女のお尻でも撫でたのだろうと思うくらいの悲鳴だった。
「違うの。違うの。説明不足でごめんなさい」と、彼女は言う。こっちは何のことだか、わからない。
「ここに(ふりがな)って書いてあるでしょ。ひらがなで(ふりがな)って書いてあると、ひらがなでルビを振らないと駄目なんだって」

「何?ふりがなって、普通カタカナだよ。銀行もね」
「違うの、違うの。(フリガナ)と書いてある時は、カタカナで、この書類は(ふりがな)のなってるから、ひらがなでルビを振らなければ駄目なんだって」
 ふりがな(フリガナ)ってのは、そもそも、漢字の読み間違いをなくするために存在するんだべ。例えば「国定忠次」が「コクテイ・タダツグ」ではなく「金色夜叉」は「キンイロ・ヨマタ」とは読まないってことを知らしむるためにあるんだべさ。
 こんなくだらないことで呼び付けて、書類を書き直させるのは、意地悪以外の何ものでもないと、心の中で叫んだけれども、彼女に言ってもはじまらない。
 後で聞いてみたところ、比較的若い人たちの間では、この書き方は当たり前らしいのだが、でも、ウチの事務長をわざわざ呼び付けて書き直させたりするほどのことではないだろう。だってちゃんと読めるのだから。
 こういうことって「親方・日の丸」を笠に着てのイジワル(イジメと言った方が正しいかもしれない)である。こんな人たちに比べたら、昨今の若者の「マニュアル」は、とても可愛いものだと、改めて思った。
[27] (2007/10/26(Thu) 08:38:05)



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