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霜石コンフィデンシャル60     高瀬 霜石

 「 サ ソ リ 座 の 女 」

 世は落語ブームである。
 東京には、浅草、新宿、上野、池袋と、4つの寄席がある。その中で、新宿・末広亭だけは、平日入れ替えなしなのがいい。たっぷり時間がある時は、昼の十二時から夜の九時までも粘ることがある。
 寄席には落語のほかにいろいろな出し物があるが、その中の一つの「紙切り」をご存知だろう。
 なにげなく眺めているが、この人(林家正楽)の技は実にたいしたもの。切るもの全てが、当日限りのオリジナルだから、うまく頼めば、貴重でかつユニークなお土産(プレゼント)になると、ある日気づいた。
 以来、研究に研究を重ね、僕はとうとう約90%の確率で、自分の望む「切り絵」を手に入れる方法を編み出した。今回は正月につき、特別に、たかねの読者だけに限って、こっそり伝授したい。
 まずは、前の方に座る。僕はいつもかぶりつきに陣取るが、そこまではしなくても、正楽氏に自分をアピールできるくらいの位置につけることが肝心。
 彼は登場すると、すぐ身体を揺すりながら切り始める。今なら、正月風景を切って「欲しい人よかったら差し上げます」と言う。必然、欲しい人が何人か手を上げるが、こっちも参加する。そして気持ちよく譲る。
 正楽氏にこっちの顔を売り、かつ貸しをつくる戦術。「では次に、お客様からお題を頂戴・・・」と、彼が言ったか言わないうちに、大きな声でリクエストする。このタイミングが難しい。彼はにっこり笑い、僕の希望をかなえてくれるという寸法だ。
 ここを逃したら、まず次はない。お客も心得てくるし、女性や子供から声がかかったら、男に勝目はない。この一瞬に、とにかく命をかけるしかないのだ。
 一番最初に手に入れたのは、ライオンの背中にウサギがちょこんと乗っている図。これはまさに傑作で、今でも額に入れてある。卯年生まれで獅子座の息子のためにゲットしたのだった、親バカだねえ。
 同居人のは、虎が魚を捕っている図。熊が鮭を捕るのは分かるけど、これはとてもヘンと喜ばれなかった。
 正楽氏が「これは、凄い組み合わせだねえ」と驚いたのは、妹のための《蛇と蠍》であった。
「巳年生まれのサソリ座の女に、つい惚れちまってねえ」と弁解したら、彼は僕を見てニヤリと笑った。
[31] (2008/02/26(Mon) 08:38:05)



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