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霜石コンフィデンシャル62     高瀬 霜石

「ジョン・ウェインはバイリンガル」
 十年前の冬、同居人が大病をした。
 だいたいは、夫が倒れて、妻が看病をするというのがポピュラーで、そういうシュミレーションはわが家でも日頃していたが、その逆はしていなかった。
 ショックは大きかったが、彼女は無事生還した。
 以来、彼女の人生観は一変したのであった。ただ、僕の目から見れば、病をひとつ克服したものの、また別な新しい病気にかかったようなものでねえ。
 僕が名付けた、彼女のながーい病名は・・・
『死んでもジェンコ(銭ッコ)は持っていけないから、時々はパパッと使って人生を楽しもうじゃん症候群』という。(笑)
 この病気にかかると、たいていは『旅行したいしたい病』も併発する。いわゆる合併症ですな。(笑)
 この病気、冬の間は、比較的落ち着いている。でも、春の足音が聞こえるようになるともういけない。
 この病気には、家族の理解と協力がたっぷり必要。僕はとてもおおらかで、喜んで彼女を送り出す。
「音がウルサイ」「血が出る」「人がぽこぽこ死ぬ」「気味が悪い」などの理由で、同居人に遠ざけられている。
《チャンバラ》《ヤクザ》《西部劇》《ギャング》《ホラー》
などの、それは大量のビデオやDVDの出番なのだ。
さあ、待ちに待ったショー・タイム。「霜石コレクション・B級映画館」の幕が開く。
 一本目は西部劇。イッパイやりながらだから、DVDを日本語版にセットする。当然のこと、ジョン・ウェインは日本語を喋っているのだが、突然、英語で話しだしたりするのだ。アレ?と思うと、またすぐ日本語に戻る。しばらくすると、また突然英語になるから不思議。
 実はこれ、テレビで放映された時の「日本語版」をそのまま使用しているせいなのだ。つまり、日本語がない―英語で話して字幕が出ている―シーンは、テレビ放映ではカットされた部分ということなのだ。
 カットされているのは、ストーリーに直接関係のない所。例えば、食事をしたり、世間話をしたりなのだが、本当はこういうなにげないシーンこそが大切。彼のしぐさや会話に、性格や癖や生い立ちがちりばめられていて、一人の人間がじわり浮き彫りになるのだ。
 テレビ映画ちゅーもんは、かくもズタズタ。とても映画と呼べるシロモノではないということを、ジョン・ウェイン叔父さんは僕に教えてくれた。

[33] (2008/04/26(Fri) 08:38:05)



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