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霜石コンフィデンシャル78   高瀬 霜石

「センリュウ・コネクション」

 前号で、渋谷伯龍さんの出演しているNHKテレビ「お国言葉で川柳」の裏話めいたことを書いた。
 伯龍さんとは、もう長いつきあいだ。
 僕がまだ三十代前半で、青年会議所(JC)に所属していた頃、ボーイスカウト隊長のシブさん(三十代後半)に、子供のキャンプの指導をして貰ったのがきっかけ。
 僕は、正直、こういうタイプは苦手であった。ボーイスカウトというとアウトドア派でしょ。僕は、暇さえあれば映画館にこもる正真正銘のインドア派だ。
 しかも、彼は始末の悪いことに、応援団の元団長という猛者ではないか。できればこういう危険人物(?)には近づきたくなかったのだが、話して驚いた。
 彼は映画好きで、しかもかなりの読書家であった。お互い、推理小説ファンで、特にジェフリー・アーチャーやフレデリック・フォーサイスの愛読者ということが分かり、グンと距離が縮まったのだった。
 川柳の道に僕を引きずり込んだのもシブさん。誘われて断りきれなくなったらしい。自分ひとりで行けばいいものを、無理やり僕の首に縄を付けて離さない。なにせ、高校の先輩で、兄とも慕う人だから困った。
「シブさん。敬愛するシブさんの頼みならたいていの事は聞きますよ。でも、これだけは勘弁してけ。なぜって、ビートルズ世代のオラだよ。ロックン・ロール男が、ジジ臭い川柳なんてやれるわけネーべさ」
「タガセくん。一回でいいから、つきあってよ。それにさあ、タガセくん。アンタにピッタリだと思うよ。なぜって、アンタは、結構ハンカクサイもの」
 今や川柳の伝道師と呼ばれている渋谷伯龍も、当時はまだ、川柳ってハンカクサイものだと思っていたのだから、若かった、青かったのだ。
 川柳を齧っていなかったら、どうだっただろう。
 今の僕は、生業をのぞけば、ほとんど朝から晩まで、川柳浸けの毎日だ。自分の考えを素直に発言できるラジオ番組や、思いの丈をあれこれ発表できるこういう連載があるので、ストレスなどまったく溜まらない。
 これらのことはすべからく、僕が《川柳人》であるからこそ与えられた「場」に違いない。
 僕にとって、あの日のシブさんは、間違いなく「拉致犯」であった。あれから二十五年が過ぎた。「拉致犯・シブ」は見事「恩人・伯龍」に格上げとなった。
[49] (2009/08/29(Fri) 15:10:40)



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