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「ケンさん今昔(いまむかし)」  高瀬 霜石

 
 前回、山田洋次監督作品「幸せの黄色いハンカチ」に触れたので、もうちょっとその話を続けたい。
 長い間東映ヤクザ映画のヒーローだった高倉健が、その渡世から足を洗うきっかけになったのが。まさしくこの映画であった。
 旅の途中、同じ九州出身のわりにはまるで男らしくない武田鉄矢に、健さんが説教をする。
 「お前のような男を、俺の方じゃあ『草野球のキャッチャー』いうんじゃ。わかるか?みっともない(ミットもない)ちゅうこったい」
 たとえ映画であっても、あの高倉健が、冗談を言ったことに僕は驚いた。
 その後、健さんはすっかりカタギになり、「八甲田山」「動乱」「南極物語」などの大作にたて続けに主演し、押しも押されぬ大スターになってゆく。
 この前、テレビで若い女性アナウンサーがしきりに「ケンさん・・・」を連呼するので見たら、「ラスト・サムライ」で一躍評判をとった渡辺謙のことであった。
 一時、テレビにも映画にも出ずっぱりだった緒形拳だって、国民的人気者のバカ殿・志村けんだって、決して単独で「ケンさん」とは呼ばれなかった。
 渡辺謙がアカデミー賞の助演男優賞の候補になり、今またハリウッド映画「バットマン5」の敵役に大抜擢された(実際、@では名優ジャック・ニコルソン。Aでは怪優クリストファー・ウォーケン。Bでは渋いトミー・リー・ジョーンズ。Cでは今や政治家になってしまったあのアーノルド・シュワルツェネガーと、常に大物が演じている役どころ)のだから、時の人には間違いないのだが、だからといって渡辺謙を「ケンさん」と呼んでもいいかというと、そりゃちょっと違うだろうと、僕は思うのだ。
 昭和六年生まれの高倉健も七十四歳。昭和は遠くなり、健さんも、健さんファンのあなたも僕も、老いた。
 

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[7] (2005/06/07(Mon) 10:46:45)



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