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「トイレの松子さん」 高瀬 霜石

去年は、邦画が元気だった。テレビ局も製作に関わ
り、どんどこコマーシャルを流す。面白そう、たまに
は映画館に行ってみようかとなる(らしい)。
 二月は、本家のアカデミー賞がある。それにあやか
って日本のアカデミー賞というのもだいぶ前からある。
 去年は「三丁目の夕日」が、賞を総なめにした。今
年は「フラガール」の前評判がつとに高い。
 昭和四十年、舞台は福島県いわき市。「常磐ハワイア
ンセンター(現在は、スパリゾートハワイアンズ)」の
誕生を支えた人たちの実話の映画化だ。
 主演の松雪泰子と蒼井優が素晴らしく、おそらく主
演女優賞と助演女優賞はこの二人のものだろう。
 でも、みんながそう言うと、つい反対をしたくなる
のが川柳人の悪い癖。作品賞は「フラガール」に異論
はないが、僕は主演女優賞は、中谷美紀にあげたい。
 邦画にしては珍しいミュージカル仕立ての「嫌われ
松子の一生」が、とてもよかった。歌が上手だった。
「力道山」での奥さん役もよかった。「7月24日のク
リスマス通り」はペケだったけれど、つまりは、二勝
一敗。勝ち越しだからたいしたものなのだ。
去年の秋。突然、シャワートイレのセンサーの具合
が悪くなった。用を足して立ち上がろうとすると、突
然、もう一回、勝手に、シャーときたりするのだ。時
には、ズボンがびしょ濡れになったりもして困った。
 同居人にはすこぶる評判が悪かったが、慣れてくる
となんだか他人には思えなくなり、「用を足しても、す
ぐに立ち上がらなければいいでばし。二度はあっても、
三度は絶対にないのだから。彼女が時々サービス残業
をしていると思えば、結構楽しいでばし」と、電器屋
を呼ぶという同居人をとりあえずなだめた。
 映画「トイレの花子さん」に因んで、彼女を「花子」
と名付けた。気まぐれな家族が一人増えた気がした。
「今日は花子どうしてら?」「そういえば、今日はまだ
顔見せてねの」というような会話が続いていたある日
のこと。映画を観てきた同居人が「あのさ。今日から
花子はやめて、松子にしたいけど、いい?」と聞く。
 名付け親としては淋しいが、仕方がない。その日か
ら彼女は「松子」になった。松子はその後もよく働い
たが、僕が三泊三日の出張から帰ってきたら姿を消し
ていた。ひとつ家に女性二人は、所詮無理であった。

[16] (2007/04/23(Mon) 14:22:56)



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