平成二十年度 たかね年間賞受賞作品
正 賞 母さんが教えてくれた非常口 井口 薫
準 賞 ストライクゾーンがぶれてくる野心 戸田美佐緒 玄関の前に消えない水溜り 鹿野 太郎 ひとり酒この平凡は捨てられぬ 高瀬 輝男 人を読むお世辞の中の照り返し 柳沢平四朗 花の雨少しほとぼりさめるまで 鈴木まつ子
いわて紫波川柳社主幹 岩手県 熊谷 岳朗 選 特 選 母さんが教えてくれた非常口 井口 薫 佳 作 幸運な朝だ卵に黄身二つ 増田 久子 苦しくて息ができなのでしゃべる 真理 猫子 恥かいてかいて林檎が熟れてくる 戸田美佐緒 自画像は強く優しい顔にする 畔柳 晴康 ▽風土性によるものでしょうが、岩手と違って明るく温かな句が多いと思いました。心温められました。
熊谷 岳朗(くまがい がくろう) いわて紫波川柳社主幹 全日本川柳協会常任幹事 句集「風はうたう」
川柳宮城野社主幹 宮城県 雫石 隆子 選 特 選 母さんが教えてくれた非常口 井口 薫 佳 作 ストライクゾーンがぶれてくる野心 戸田美佐緒 出直しの敵に自分の影もいる 柳沢平四朗 薄墨の心に白い月が出る 石井 昇 もう一つ確かなものに農作業 大塚 徳子 ▽「たかね川柳会」の意欲的な作品拝見致しました。静岡の風土性はあまり感じることもなく、関西、関東風でもないのが「たかね川柳」なのかも知れません。特選句は常套的ではありますが「母」と「非常口」に現代性と愛を読みました。
雫石 隆子(しずくいし りゅうこ) 川柳宮城野社主幹、宮城県川柳連盟理事長 句集「樹下のまつり」 「浜夢助の川柳と独語」編者
「風」主宰 埼玉県 佐藤 美文 選 特 選 花の雨少しほとぼりさめるまで 鈴木まつ子 佳 作 風袋を引けばふわりと浮く命 石井 昇 ストライクゾーンがぶれてくる野心 戸田美佐緒 人を読むお世辞の中の照り返し 柳沢平四朗 出直しの敵に自分の影もいる 柳沢平四朗 ▽年間賞であるからある程度の風格(品格ではない)と物語性がほしい。テクニックも裏へ隠れたほうがいいのだが、これは騙されたかもしれない。特選句、きれいごとに流されていない。
佐藤 美文(さとう よしふみ) 「風」主宰。柳都川柳社同人。 「佐藤美文句集」「川柳文学史」 「風 佐藤美文句集」ほか。
白帆川柳社主幹 東京都 成田 孤舟 選 特 選 人を読むお世辞の中の照り返し 柳沢平四朗 佳 作 各論も総論もないトコロテン 戸田美佐緒 ひとり酒この平凡は捨てられぬ 高瀬 輝男 断崖の渕を歩いているカルテ 安田 豊子 生ビール進行形の恋がある 望月 弘 ▽全体に理解し易い句で納得出来たが、反面いま一歩突っ込みが足りない気がした。特選句・人を読むは下の句の「照り返し」で句全体が引き締まっていると思う。
成田 孤舟(なりた こしゅう) 川柳白帆吟社主幹 全日本川柳協会理事 句集「風の四季」「氏す姓」
石川県川柳協会会長 石川県 酒井 路也 選 特 選 ストライクゾーンがぶれてくる野心 戸田美佐緒 佳 作 断崖の渕を歩いているカルテ 安田 豊子 超後期 霞食っても生きてやる 寺脇 龍狂 気がつくと空っぽの舟漕いでいた 多田 幹江 ネジをまくでも私は私で 中田 尚 ▽六十三句どの句も佳吟で一理ありました。その中でも自分の意思、主観がはっきり出ている句に私は高い点を入れました。感服でした。
酒井 路也(さかい みちや) 石川県川柳協会会長、日川協常任幹事 石川県芸文協理事 句集「家路」「路」「十字路」「路也」「白山」
川柳研究社幹事 埼玉県 渡辺 梢 選 特 選 玄関の前に消えない水溜り 鹿野 太郎 佳 作 葛根湯やさしく嘘を吐いている 濱山 哲也 ひとり酒この平凡は捨てられぬ 高瀬 輝男 花の雨少しほとぼりさめるまで 鈴木まつ子 各論も総論もないトコロテン 戸田美佐緒 ▽粒揃いの作品からの選句に悩みました。特選句は玄関先で何が起きるか分からない現代の不安感を「水溜り」の比喩で表現。佳1の可笑しさ、佳2の平凡が平凡でない自負、佳3のドラマ性、佳4は今の政治にぴったり。何れも心に響く作品でした。
渡辺 梢(わたなべ こずえ) 1938年宮城県生まれ 川柳研究社幹事 全日本川柳協会常任幹事
番傘川柳本社 大阪府 森中惠美子 選 特 選 太陽が大きく見えた旅立つ日 真田 義子 佳 作 ひとり酒この平凡は捨てられぬ 高瀬 輝男 母さんが教えてくれた非常口 井口 薫 幸運な朝だ卵に黄身二つ 増田 久子 生ビール進行形の恋がある 望月 弘 ▽年間賞候補作品の句群にそれぞれの表現と存在感はある。旅立つ日の太陽の大きくすばらしいロケーションを特選とした。ひとり酒、非常口、幸運な朝、進行形の恋等、ことばに無駄がなく明るい。
森中 惠美子(もりなか えみこ) 番傘川柳本社副幹事長(同人歴五十年) 句集「水たまり」「水たまり今昔」 「仁王の口」
川柳塔社理事 鳥取県 新家 完司 選 特 選 玄関の前に消えない水溜り 鹿野 太郎 佳 作 調律の日だけピアノの蓋が開く 増田 久子 週刊誌俺の病気が載っている 金田政次郎 プチ整形するより字でも習おうか 谷口さとみ 雨の日は間違い電話さえ来ない 芹沢穂々美 ▽ベスト10は簡単に選ぶことができたが、そこから絞り込むのに苦労した。特選の句は、誰もが抱えている不快な気分や状況を「玄関先の水溜り」に抽象化したのが手柄。
新家 完司(しんけ かんじ) 川柳塔社理事、川柳展望社会員 新家完司川柳集「平成元年」「平成五年」 「平成十年」「平成十五年」「平成二十年」
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[139] (2009/01/26(Sun) 10:01:18) |
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