「晩 夏 光」 斉尾 くにこ
淡天の舗道に立てば網の鰺 鳥 取
フェミニスト白黒つけぬ生殺し
デリカシィ知らぬ強さに後ずさり
心身を洗って夏をかたづける
「 川 」 山本 野次馬
桃の実も流れ流され元の位置 函 南
川幅を縮めあなたと添い寝する
川下に立って分かった人のエゴ
ぶら下がる両手の下にある小川
「雑 詠」 奥宮 恒代
どんぐりがコロコロ野田に秋の風 森 町
名酒びん並べ静かな秋の夜
お隣りは大事と境せってくる
糖衣錠心の中に巣くう鬼
「限 界」 新貝 里々子
エアロビの君の元気がちょっと邪魔 袋 井
ショッキングピンク年齢不詳のまま老いる
完熟のトマトにずっと騙された
君と逢うモザイクつけて弾ませて
「雑 詠」 馬渕 よし子
偽物の愛でも愛の香りする 浜 松
良く眠る子のままずっと脛かじり
種明かしすれば孤独になる怖さ
返品は駄目だと婿に言い聞かせ
「自 由 吟」 濱山 哲也
金と書くぼくの哀しい試し書き つがる
アルバイトの神父導く永久の愛
苦労は買ってでもしろ 僕が売る
すごいなあマスクをしても美女は美女
「一人また一人」 毛利 由美
巣立ち後の部屋が更地になっている つくば
空室が目立つローンの残る家
子のいない家はシーンと音がする
勉強机もらいミシンを置いている
「気ままに冗句 その6」―オイ― 西垣 博司
本名で嫁いでオイと呼ばれてる 静 岡
妻の座の雅号はオイにしましょうか
私の名オイを認めてしまいそう
孫さえもばあばはオイと思ってる
「四 股 名」 石田 竹水
聞く振りで鼾をかいていましたね 静 岡
主婦という四股名が意地を張っている
山小屋へ濃霧を避ける命乞い
結末は顎が外れた喋り過ぎ
「真 夏 日」 飯塚 すみと
在日のコリアン今が大好きさ 静 岡
独特の小さい島は貸してやれ
中国が拳上げたしあげられぬ
遠くない書店の距離が熱中症
「 情 」 安田 豊子
雑兵の人情噺が咲く酒場 浜 松
どん底に落ちて弛まぬ情知る
人情にふれて自分を省みる
花活けて吉報持った友を待つ
「満 月」 小林 ふく子
美しい満月 神がおわします 袋 井
満月の黄金思わずハッとする
満月へ何故か合掌してしまう
満月へ盃の月おいしくて
「自 由 吟」 滝田 玲子
動乱の昭和を耐えた戦中派 浜 松
かるがると口すべらせて掘る墓穴
ころころと変わる世相に追いつけぬ
雑草の図太さに負けこぼす汗
「余 生」 鈴木 恵美子
あといくら未来の夢追う余命表 静 岡
団塊の世代余生に炎をつける
ずばり言う友と会話の余生かな
ラストチャンス愛の終着駅と決め
「残 り 火」 鈴木 まつ子
爪に火を点して生きた戦中派 島 田
ライバルへ活気なくした火吹竹
残り火へすんだ乳房にある温み
乱れないうちに止めとこ火のお酒
「雑 詠」 成島 静枝
昔日の絆訃報へ義理を欠き 千 葉
天国で逢ったら言おう好きでした
告別の時間不義理の手を合わせ
片想い伝えて欲しい千の風
「長崎にて」 井口 薫
教会巡り踏絵の底に血の叫び 袋 井
ひしひしと軍艦島のエネルギー
戦艦と豪華客船対峙して
限りなくイージス艦は海の色
「少し恐い話です」 増田 久子
注意書きだったんですかこの英語 焼 津
致死量を知る人はないコラーゲン
母さんを土産に置いて兄帰る
実物をそのまま漬けたまむし酒
「未 来」 大塚 徳子
握力のあるうち握手しておこう 仙 台
惚れられた強みジョーカー握ってる
書き残す何かありそでペン握る
赤い糸結び直して行く未来
「希望としては…」 栃尾 奏子
期待して連番にする宝くじ 大 阪
願わくば次男で別居専業で
絵に描いた餅はいつでもやわらかい
昨日まで元気ある朝ポックリと
「草 笛」 真田 義子
一度しか渡れぬ今日という橋よ 仙 台
種を蒔く心に花が咲くように
迷わずに夢に向かって行くつもり
草笛が思い出ゆっくり連れてくる
「回 顧」 藤田 武人
夕焼けにかごめかごめの声遠く 大 阪
ガキ大将輪ゴム気になる娘に放つ
自転車を初めて乗れた日の夕陽
アルバムを捲れば亡母の字で芽生え
「自 由 吟」 孝井 栞
百均に五百円だという値札 富 山
湯加減がいいと饂飩の肌効果
ビックリ箱君の笑顔を待つ時間
この中で誰が綺麗ときく波紋
「神 様」 萩原 まさ子
貢ぎ物ヒットご機嫌山の神 静 岡
幸せのうちは神仏シカトされ
十月もお出かけしない山の神
精進を見せれば神も味方する
「ありがとう」 宮浦 勝登志
ありがとう一瞬にして和む風 静 岡
国訛り気さくで温いあんとさん
ありがとう言えば気分は二三倍
ありがとうただ一言で丸く済み
「フィナーレ」 提坂 まさえ
神々が束になっても勝てぬ妻 静 岡
フィナーレは泣かないでおく赤いバラ
お開きはありがとまたね三姉妹
一生の百万回のありがとう
「 秋 」 石上 俊枝
食欲が抑えられない鰯雲 静 岡
好きな秋 酒もサンマも君も好き
今わたし秋を通過で銀杏舞う
天高く妻肥え俺の力量か
「自 由 吟」 川村 美智代
飼い犬に散歩誘われありがたい 静 岡
お見通し神の目をする犬といる
貧乏神居心地いいと出て行かぬ
あれ以来ものを言わない山となる
「自 由 吟」 野中 雅生
幼い日登った山が世の遺産 静 岡
あの戦神風吹かず敗れたり
ロンドンのアポロは誘う昼寝ぐせ
この日本神々のいる楽土だよ
「感 謝」 野中 とし子
子供らの感謝の気持ち旅行券 静 岡
七五三神に手合わせ孫の顔
神棚に上げたお餅をこっそりと
ありがとう最後言いたいこの言葉
「自 由 吟」 安藤 千鶴子
全力で愛し続けてくれた母 静 岡
過ぎし日を自分巡礼懺悔する
お賽銭一割税を付け願う
ありがとうの力絆を強くする
「自 由 吟」 鹿野 太郎
窓口が待ち焦がれてるコウノトリ 仙 台
命火が猛暑に耐えて太くなる
真夏日にさらりと捲る哲学書
この万札幸せになるために来た
「自 由 吟」 南 天子
自己流に雅号つけたが笑い声 焼 津
大津波クルクルクルと言わないで
山で死ぬ海で死ぬのも天命と
お月さま隣の席はだめですか
「自 由 吟」 菅原 花子
我が恩師女神のように美しい 盛 岡
遅蒔きのひまわり咲いて希望わく
暑くてももうすぐ秋と信じよう
来年の暦の予約始まった
「傾 く」 酒井 可福
傾けた耳に渡世の術を知る 北九州
傾いたままのおいらが冴えている
お日さまが傾き さてと縄のれん
徳利の傾き浅いもう一杯
「姿 勢」 薗田 獏沓
お前なら出来ると暗示意地もあり 川根本町
腰の線崩れてヨガに通い始め
妻の背の丸さは僕のせいじゃない
近所には如何にも円満ぶって見せ
「自 由 吟」 川口 のぶ子
途中下車何時も楽しみ見ています 藤 枝
公園を三回廻りダイエット
エアコンのおかげで体楽になり
空蝉の終わりを告げる暑き宵
「世 の 中」 岡村 廣司
世の中に謎多過ぎてやりにくい 焼 津
力まずに流れに添えば楽なのに
車椅子の目線世の中良く見える
結局は金がもの言う世の中さ
「近 況」 川口 亘
いやはやと失笑しつつ字を拾う 藤 枝
完璧を装う笑の手がすべり
なりふりを気にする余り出を阻み
負けぬ気がいつしか首をもたげ居り
「 坂 」 鈴木 千代見
人生にまさかの坂に出会うとは 浜 松
坂いくつ越えればいいのシャボン玉
坂道で拾った運を握り締め
上り坂あれば下りの坂もある
「買 い 物」 中矢 長仁
婦人物恥ずかしいから外で待つ 松 山
特価品だけを狙ってハシゴする
スーパーはカートを押して妻の後
ドライブを兼ねて遠出の野菜市
「夏 祭 り」 畔柳 晴康
村祭り無沙汰忘れて笑み和む 浜 松
宮詣で浴衣団扇が良く似合う
揚げ花火夜空彩り響いてる
踊りの輪弾む太鼓や笛つられ
「 秋 」 山田 浩則
一杯のコーヒー飲んで目が覚めた 島 田
コンビニのおでん恋しくなる晩秋
日没の早さ感じる季節かな
紅葉の便りが届く北海道
「野 良」 多田 幹江
花は野の花 猫もやっぱり野良が好き 静 岡
のら猫の背に重ねる飢えた日々
薄情野良の黒い背中が遠ざかる
引き止めたくて餌をくれてる訳じゃない
「 空 」 中野 三根子
青空に入道雲の美しさ 静 岡
気がつくと空が高くて赤トンボ
どこまでも続くのあかね空の色
夜空にはしかけ花火が絵の様に
「自 由 吟」 林 二三子
料理本片付け本も読むだけで 富士宮
採れすぎたゴーヤを佃煮で食べる
友に会い買い物もそぞろで帰る
気まぐれな猫と付き合う暇な午後
「 杖 」 永田 のぶ男
がっちりと草踏んずけて土踏まず 静 岡
電器屋が来て植木まで切っている
待合い室杖の転げる音がする
同期会約半数が杖を持つ
「勾 い」 谷口 さとみ
想い出を雨の匂いが連れてくる 伊 豆
長旅の終わりにそっとファブリーズ
薔薇の香を知ってしまった旅がらす
無味無臭 二十世紀の日本
「未 完 成」 荒牧 やむ茶
どこまでも夢が膨らむ未完成 小 山
あっぷっぷ半分欠けた虹の橋
未完成だから人間臭く好き
まだ咲かぬ未完の大器だった僕
「森 林 浴」 真理 猫子
朝ごはん食べて昼寝の森にいる 岡 崎
群衆に見立てた森でリハーサル
方言の森 南部弁 津軽弁
この森のはじまり祖父の秘密基地
「 秋 」 森下 居久美
結活の蝉を急かして夏が行く 掛 川
満月を愛でれば虫のセレナーデ
秋風に乗って隣のサンマ臭
新米の味噛みしめる塩むすび
「花火とユタカ」 稲森 ユタカ
恋花火二人を照らす赤青黄 静 岡
こぼれてく火の粉 淋しさ残し消え
打ち上がる花火の下で距離縮む
告白を花火の音にかき消され
「予 感」 松田 夕介
オンナの勘ノストラダムスより当たる 静 岡
もう一山越えたらきっとあるヘブン
悪い予感方位磁石を惑わせる
フライング恋の予感はいつもそう
「不徳の致すところです」 佐野 由利子
マンネリの言葉に飽きたカタツムリ 静 岡
長化粧不徳の致すところです
選ばれるまではしがないかすみ草
校庭のフォークダンスが懐かしい
「 秋 」 増田 信一
虫たちの居場所を残し草を刈る 焼 津
ダイエット秋の味覚にギブアップ
故郷はオーケストラの秋の宴
彼岸花昔の景色連れて来る
「自 由 吟」 川村 洋未
内気でも種は蒔きたい男の子 静 岡
持病だな厭味一言また言った
本業は金の成る木を育ててる
花柄の傘を買ったら雨上がる
「 秋 」 中田 尚
買いためた文庫そろそろ紐を解く 浜 松
食欲の割には重くなりません
ソーメンをラーメンにして秋を待つ
政局も五七五も秋の乱
「余 力」 薮﨑 千恵子
脇道でしかと自分を確かめる 焼 津
余力まだあるから背筋ピンとさせ
真っ直ぐな気性に疲れ溜まり出す
太っ腹困ったことに金が無い
「料 理」 勝又 恭子
お皿から出ちゃう厚着のエビフライ 三 島
マヨネーズかけるとどれも似たお味
いい皿にちょっと乗せると美味しそう
コロッケを食べると思い出す夕日
「軸足の構え」 池田 茂瑠
コルセット外し浮きたい道辿る 静 岡
結論へ軸足変えて構えたが
七転びだけでは済まぬ私です
放たれた矢に似て元に戻れない
「徐々に秋へ」 望月 弘
赦せない缶ビール無い冷蔵庫 静 岡
盃へバトンタッチをするコップ
ワンカップ効きすぎたかな酔芙蓉
ファスナーがすんなり上下しなくなる
「隣 人」 加藤 鰹
すぐキレるキムチの国のケツの穴 静 岡
洗脳の暴徒人民共和国
国境線すいすい越えてきたサンマ
この地球誰の物でもないのにね
顧 問 吟
「生 き る」 高瀬 輝男
パン生地を捏ね 生きるって何だろう 焼 津
風激し生き続けるは難しい
そこそこの距離を保って生きてます
箱庭を見ている感じ田植え終え