平成二十三年度 たかね年間賞受賞作品
正 賞
お上手ねしっぽ振るのもアカンベも 奥宮 恒代
準 賞
すぐ響く人ではないが何故か好き 小林ふく子
むきになる青いしっぽをぶらさげて 斉尾くにこ
ミシュランは知らない母の握り飯 孝井 栞
子が拾う骨だしっかり鍛えとく 岡村 廣司
現代川柳新思潮 青森県 柴崎 昭雄 選
特 選
むきになる青いしっぽをぶらさげて 斉尾くにこ
佳 作
ミシュランは知らない母の握り飯 孝井 栞
すぐ響く人ではないが何故か好き 小林ふく子
人生もここまで来ると斜め読み 馬渕よし子
正論を吐いたトイレの流し水 山本野次馬
▽青いしっぽはプライドかもしれない。時に必要で、時に邪魔になるしっぽ。「青い」と「むきになる」が人間らしくて微笑ましくもある。
柴崎 昭雄(しばさき あきお)プロフィール
現代川柳「新思潮」正会員
句集「木馬館」「少年地図」
第十七回川柳Z賞大賞受賞
元「かもしか」幹事 秋田県 児玉ヒサト 選
特 選
お上手ねしっぽ振るのもアカンベも 奥宮 恒代
佳 作
二つ目の癌は誰かに喋りたい 望月 弘
再会を尻尾短くして待とう 池田 茂瑠
私のすき間を埋める美術館 森下居久美
鏡から外出許可が出ない朝 松田 夕介
▽どの句も円熟の味わいに溢れ、洗練されている。半面、ストレートな感情表現や『鋭利さ』を感じさせる句が少ない印象である。特選句、巧みな口語づかいの中に、切れ味のあるエスプリが光っている。
児玉ヒサト(こだま ひさと)プロフィール
元かもしか幹事、元「銀の笛」副主幹
平成十三年東北川柳大会優勝。昨年、小
説の本格挑戦を宣言し「銀の笛」を退会。
紅 樹 埼玉県 佐藤美枝子 選
特 選
出る杭も打たれ上手になっていく 薮﨑千恵子
佳 作
この辺で芽を出さないと枯れていく 南 天子
突然の背伸びに影が面食らう 鹿野 太郎
胸騒ぎ大きくなった嘘一つ 酒井 可福
アクセルがかじかんでいる月曜日 真理 猫子
▽どの作品も自身(わたし)のヒューマンドキュメントで納得。
佐藤美枝子(さとう みえこ)プロフィール
1991年より「紅樹」を創刊。
句、文集に「峠のおちこぼれ」「萬華鏡」
「女の森」「縄文のほむら」など
ぐるうぷ葦 奈良県 板垣 孝志 選
特 選
木星のあたりで象が迂回する 真理 猫子
佳 作
似た様な傷があるから近寄れる 安田 豊子
人生もここまで来ると斜め読み 馬渕よし子
嘘が下手ホントも言えずマグカップ 提坂まさえ
上向いて歩きたいけどシーベルト 望月 弘
▽特選句にメルヘンチックな抽象画が見える(例・藤岡しんたろう画伯)何かが見える抽象句はいい。秀一、秀二、秀三、それぞれ納得できる。秀四、平成二十三年の空の重さを忘れないように
板垣 孝志(いたがき こうじ)プロフィール
ぐるうぷ葦編集担当、葦郡同人
句集「はぐれ雲」
本年度川柳マガジン大賞受賞
柳 都 川 柳 社 新潟県 山倉 洋子 選
特 選
お上手ねしっぽ振るのもアカンベも 奥宮 恒代
佳 作
すぐ響く人ではないが何故か好き 小林ふく子
倒立が下手で会社を辞めました 真理 猫子
正論を吐いたトイレの流し水 山本野次馬
嘘が下手ホントも言えずマグカップ 提坂まさえ
▽私の選ばせてもらった五句は、私の心にとても素直にまっすぐ響いてきた作品で、何度読み返しても気持ちのいい、あと味のいい作品ばかりでした。
山倉 洋子(やまくら ようこ)プロフィール
柳都川柳社同人
句集「卑弥呼」「卑弥呼氾濫」
オール川柳賞奨励賞受賞など
川 柳 展 望 社 鳥取県 門脇かずお 選
特 選
閉店の日の開店を列で待つ 増田 久子
佳 作
むきになる青いしっぽをぶらさげて 斉尾くにこ
急がねばまだ弾力のあるうちに 井口 薫
お上手ねしっぽ振るのもアカンベも 奥宮 恒代
冬眠をするのか妻はよく食べる 西垣 博司
▽ユーモアな句が多く、楽しませていただいた。私の特選は「閉店の日の開店を列で待つ」。閉店セールに誘われて並んでいる作者だが、どこか寂しげだ。こんなことならもう少し利用してあげておけば…と思っても後の祭り。現代社会の現実がここにある。
門脇かずお(かどわき かずお)プロフィール
昭和31年生。ふぁうすと川柳社理事
川柳展望社会員
朝日新聞とっとり柳壇選者
ふぁうすと川柳社主幹 兵庫県 赤井 花城 選
特 選
向かい風覚悟まっすぐ歩き出す 勝又 恭子
佳 作
子が拾う骨だしっかり鍛えとく 岡村 廣司
私のすき間を埋める美術館 森下居久美
すぐ響く人ではないが何故か好き 小林ふく子
人の好い背中ばかりに降る火の粉 滝田 玲子
▽[特選評] いつも順風ばかりではない。時として挫折し、逆風を衝いて人は又歩みをつづけてゆく。「まっすぐ歩き出す」に、逆境にも信を曲げず己の道を進まんとする毅然たる覚悟を見る。
赤井 花城(あかい かじょう)プロフィール
ふぁうすと川柳社主幹
句集「きやびん万句集」川柳作家全集
「赤井花城」(新葉館出版)など
川 柳 塔 社 主 幹 広島県 小島 蘭幸 選
特 選
ミシュランは知らない母の握り飯 孝井 栞
佳 作
子が拾う骨だしっかり鍛えとく 岡村 廣司
割り勘のときでもホイントは私 勝又 恭子
もう一つ足せば積み木は倒れない 萩原まさ子
待合いの雑誌パズルも解いてある 酒井 可福
▽選句を読み終ると、とても爽やかな気持ちになりました。どの作品もリズムが良かったです。リズムの良い作品はスーと胸に飛び込んで来ます。その中で私は、あのミシュランに対して誰もが共鳴する母の握り飯を持って来て、チクリと刺してみせた作品を推薦します。
小島 蘭幸(こじま らんこう)プロフィール
川柳塔社主幹、全日本川柳協会理事
広島県川柳協会会長、竹原川柳会会長
1977年句集「再会」