静岡川柳たかねバックナンバー
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霜石コンフィデンシャル73   高瀬 霜石

「私は干物になりたい」

 去年も、120本ほどの映画を観ることができた。僕の周囲の全ての皆様のお陰だと、感謝している。ときおり、あまりカンケーのない人からも、「映画観るヒマも、ジェンコもあって、いいでばしー」 と言われたりもする。「ヒマは作るもの。ジェンコだって、1本千円として、月に1万円。パチンコだの、ゴルフだのと比べたら、格段に安いべな」などと、反論したりしていたが、最近はそんな野暮なことはまず言わない。「そですネ。オラはシアワセ者です」などと呟き、宮沢賢治風に、いつも静かに笑っているのであります。
 モントリオール映画祭でグランプリに輝いて一躍有名になった「おくりびと」は、納棺師の物語。2月になると、いろいろな映画賞が話題になるが、今年の日本アカデミー賞の主演男優賞は、モッくんこと本木雅弘にまず間違いがないと感じた。それほどの演技であった。
 ついでに、いつもはクサイ芝居の山崎努も――「クロサギ」というとても出来の悪い映画にも出ていたが――今回はよかった。助演男優賞当確か。個人的には、12月号に書いた「三本木農業高校、馬術部」で先生役をやった柳葉敏郎にあげたいですがねえ。
 ついでのついでに書くと「おくりびと」の唯一の失点は、奥さん役の広末涼子だろう。映画を観るとたいていその女優のファンになってしまうほど僕は惚れやすいのだが、彼女は一度もいいと思ったことがない。
 葬儀社に勤務し、納棺の仕事に携わった体験を綴った『納棺夫日記』(著者は青木新門という詩人)なる本に、「30年以上前には自宅死亡も多く、枯れ枝のような死体によく出会った」とある。
 事故死などを除いて病院での死亡が当たり前になった今日では、ぶよぶよした死体が多くなったとある。
 口から食べ物がとれなくとも点滴で栄養が補給されているために「晩秋に枯れ葉が散るような死」が姿を消してしまったという。
 自宅死亡は望むべくもないが「私は枯れ枝のような死を選ぶ」と著者は言う。僕も同感だが、それって遺言に書いても「後の祭り」だろうし、さて困った。
 

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(2009/03/29(Sat) 14:51:40)

霜石コンフィデンシャル72   高瀬 霜石

「どうにも止まらない」

僕の生業〈自動車部品販売業〉の関係で、ホンダ技研の本拠地、三重県・鈴鹿市へ行って来た。
 1日目は、自動車の組み立て工場「鈴鹿製作所」の見学。とにかく広い。敷地は27万坪だとさ。働いている人は9千人だとさ。だけど、工場内に人はまばら。
 鉄板のプレスとか、溶接とか、塗装とかは全部ロボットがする。大方できあがったクルマの中へ、座席を据え付ける―重い座席をひょいと持ち上げ、ドアの部分(ドアは最後の最後に付ける)から、90度くらいひねって中に上手に押し込みセットする―のもロボットの仕事。人間さまは、ネジを締めるだけ。
 重いタイヤを取り付けるのもロボット。同じように、ネジ締めてOK。クルマはロボットが作っていると言っても過言ではない。
 その夜の懇親会。美人の司会者が、乾杯の音頭は本日のスペシャル・ゲストがとりますと言うので、誰が出てくるのかと期待したら、舞台の袖から登場したのは、なんとホンダのロボット《アシモ君》であった。
 懇親会と言っても、次の日は朝早くから「試乗体感ツアー」があるから、酒はほどほどにする。
 2日目。4人一組で車に乗り込み、交替で運転し、いろんなカリキュラムを体験するのだが、まずは、雨の道路(常に路面がジャブジャブ状態)を時速40km で走り、思いっきり急ブレーキをかける。はたして何m走って止まるだろうか、の実験だ。
 我々中高年は、ブレーキをドンと踏めない。そう教わって、ずーっとそうしてきたから、身体に拒否反応がある。今の車には、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)が付いているので、ドンと踏んでも、車がケツを振ったり一回転したりはしないので大丈夫だと、頭では判っているが、とても怖い。
「親の仇だと思って」、今ならさしずめ「社会保険庁だと思って」思いっきり強くブレーキを踏む。
 4〜5mでどうにか止まる。次は、時速60kmで突っ込み、急ブレーキ。制動距離は12mまで延びる。
 いよいよ雪道(これも常に路面がシャーベット状態)
である。時速40kmで走り、急ブレーキ。ABSがググッと反応するが、車はアレー止まらない。滑るは、滑るは、なんと30m。身体がギュッと縮こまる。
 冬は特に安全運転。自分のためにも他人のためにも。
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(2009/02/29(Sat) 14:50:10)

霜石コンフィデンシャル71   高瀬 霜石

「エ コ ひ い き」

「三本木農業高校、馬術部」を観た。とても、いい映画であった。主演は、長渕文音。この娘の父親は、カリスマ歌手の長渕剛。母親は、かつて千葉真一が主宰したアクション俳優養成所(JAC)の女優第一号だった志穂美悦子だが、まあ、それはどうでもいいこと。
 長渕文音は、いわゆる美少女ではない。お母さんの方がずーっと美人なのだが、この映画では、それがかえってよかった。そのへんにいそうなフツーの女の子が、障害がある分、気難しい馬の世話をしながら、苦労もし、ちょっぴり恋もしながら、じょじょに大人になってゆく、さわやかな青春物語である。
 彼女が世話をするタカラコスモス(通称、コスモ)は、目に障害があるが、生かされている。一方で、足を骨折した馬は、薬殺されるのが運命だ。
 僕は前々から、この「競争馬の安楽死」が理解できなかったのだが、実はこういうことなのだ。
 体重が四、五百キログラムもある馬。農耕馬のような頑丈な馬ならまだしも、ひたすら速く走るように、つまり精密機械のように《作られている》競争馬は、残った三本の足でその重量は支えられず、蹄が血液循環障害を起こして壊死してしまうのだそうだ。このため、馬は耐え難いほどの痛みに狂い死にするか、衰弱死してしまうという。これは、やっかいだ。
 それなら足に負担をかけないように、人間のように横になって治療を受けさせればよさそうだが、馬は寝返りを打てないので、すぐ床擦れを起こし、敗血症になってしまうので、これも駄目。競争馬自身、自分が動けない状態というのをまったく想定していないので、ストレスが溜まり、馬にとっては命取りになる腹痛を引き起こすという。まさに八方塞がりだ。
 この映画、最近の邦画によくある安易なお涙頂戴映画ではないのは、ひとえに佐々部清監督の手腕であろう。特に、先生役の柳葉敏郎がよかった。
 この人の演技は、いつも固いというか、力が入り過ぎて困ったものだったが、今回はまるで違った。
 青森県が舞台だったから「依怙ひいき」だろうと思う人がいるかもしれないが、それは違う。
 まあ、しいて言えば、三本木の《四季の美しさ》と、柳葉敏郎の《自然》な演技に対しての、ごくごく素直な「エコひいき」と思ってください。
霜石コンフィデンシャル | Link |
(2009/01/29(Wed) 14:48:05)

 

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