「妖 怪」 奥宮 恒代
一人ごと言う妖怪に返事する 森 町
飲んでいるうち妖怪の貌になる
国民と妖怪叫ぶ永田町
手鏡の妖怪ぶりにご満悦
「送 り 火」 孝井 栞
生き残る術は努力とお気楽と 富 山
手を繋ごう送り火を輪の中にして
残暑見舞い氷カラコロ飛び跳ねる
テープから父の声する形見分け
「残 暑」 川口 のぶ子
青空の奥へ奥へと奴凧 藤 枝
冷やっこ心の奥をのぞかれる
エアコンに掴まえられて動けない
もう秋だパッタリ止まる蝉の声
「じじいの詩」 村越 精也
我が主治医長生きしてよ三人目 静 岡
いつも俺 賞味期限の試食人
仲良しは孫と犬とで他はいらぬ
そろそろだ手土産用意閻魔様
「昭和って何だっけ」 瀧 進
他人の子も叱る親爺のビンテージ 島 田
義理人情映すモノクロ幻燈機
泣き節の似合う横丁縄のれん
九条の波のまにまに日本丸
「自 由」 滝田 玲子
太陽と地球マグマが燃える夏 浜 松
ストレスを癒やすと財布軽くなる
大不況考える人立ちあがる
上司の祝辞長くてビール泡が消え
「 時 」 中矢 長仁
うろうろとしていて時が直ぐ過ぎる 松 山
父の歳越して主治医に褒められる
故郷に幼馴染はもういない
アルバムで思い出の旅しています
「それっぽい」 濱山 哲也
モノクロの写真にすればそれっぽい つがる
手胡座をかいて眠ればそれっぽい
カンパーイと吠えてその場の色になる
それっぽいことを言うから惚れちまう
「おんなごころ」 栃尾 奏子
七変化女はたまごにもなれる 大 阪
通り雨愛を疑う日のもしも
残り香へ恋は秋へと加速する
その先を見たいこの愛追い詰めて
「パ ワ ー」 荒牧 やむ茶
キャンパスをはみ出すほどの夢を描く 小 山
鬱曜日元気をくれるサザエさん
おばさんの密度が高い観光地
フル充電すれば携帯よく喋る
「猛暑列島」 毛利 由美
台風が猛暑列島吹き飛ばす つくば
震度5クラスの庭仕事してガス止まる
熱いです息子が彼女連れてくる
この間だったのにまた誕生日
「猛暑の喪」 成島 静枝
控え目な喪服の真珠涙色 千 葉
猛暑日の喪服涙も干涸びる
死んだ蝉あっけらかんと上を向き
天寿まっとう蝉の骸を埋めてやり
「老 春」 深澤 ひろむ
ちょい派手に装い闊歩する巷 甲 府
夏やせに秋またやせる恋やつれ
いい夢を見たくて薄い髪梳す
初恋の傷の疼きを知るは秋
「雑 詠」 馬渕 よし子
ずかずかと土足で上るお節介 浜 松
相談に乗れば結局惚気られ
久久の雨へこころの栓が抜け
雑用の汗は評価の外へ落ち
「隙 間」 斉尾 くにこ
夕暮れの隙間へ影が入り込む 鳥 取
反射だけしていて月は美しい
あれは月望めば涙くり返す
君の海月華へ泳ぐはだかんぼ
「家 族」 鹿野 太郎
一晩でご破算になる嫁姑 仙 台
熱いシャワー浴びてひとつの罪許す
バツイチの涙は生きて行く力
熱中症予防タンクを持ち歩く
「自 由 吟」 松橋 帆波
家にいて時差ぼけになる夏休み 東 京
少年の眼に透明な他人事
金曜日までは無理矢理生きている
磯野家の闇の部分を見てみたい
「黄 信 号」 萩原 まさ子
あれあれとそれそれで済む老夫婦 静 岡
早起きし黄信号にも待つゆとり
降りすぎて地球のタガが外れちゃう
食べたっけ母さんついに黄信号
「花 火」 森 だがやん
夜空咲く火の花淋し帰り道 島 田
耳塞ぎ涙幼子空睨む
花火から見えているかなこの笑顔
震える手僕が点けると強がる子
「うらやましいね」 増田 久子
通じないだけです英語喋れます 焼 津
十年の無事を感謝のアデランス
この人の指に惚れ込んでるピアノ
取り立てた税有意義に浪費する
「雑 詠」 鈴木 恵美子
日本晴れ秋を探しにスニーカー 静 岡
これしきをどっこいしょとは七十路坂
温暖化耐えた昔をひき戻す
砂漠化の脳へ熱砂の風が吹く
「おだやか」 大塚 徳子
髪洗う先ずはわたしの身嗜み 仙 台
半音を♭にして秋が来る
おだやかな坂だ牛歩であるきたい
ながめてるだけでおだやかしのぶ草
「メニュー」 鈴木 まつ子
家族増え嫁の手料理四苦八苦 島 田
うまいもの口を拭ってさりげなく
幕の内松茸めしがこじんまり
嫁を立て好き嫌いなく手を合わす
「 涙 」 真田 義子
花言葉今も信じている蝶々 仙 台
夕焼けが残してくれた明日の夢
しっかりとけじめをつけて開けるドア
自分史に虹の色足す六十路坂
「 子 」 藤田 武人
メル友の娘と妻に嫉妬する 大 阪
パパはみごママと娘がメールする
男の子欲しいと産めば女の子
愛娘化粧真似してシンデレラ
「勇 気」 山本 野次馬
他人の子叱るだけでも命がけ 函 南
アトム来て百万倍の勇気持つ
白旗の向こうに明日の夢がある
白紙撤回に覚悟の辞表書く
「自 由 吟」 戸田 美沙緒
鏡面のアリスがなぜか他人めく さいたま
神様がきっとオマケを持ってくる
煩悩の耳朶に絡んだ非常ベル
舌きりの雀になっている夜半
「青 い 星」 石井 昇
その昔青いお星がありました 蓮 田
眼鏡はずして星空に夢探す
真夜中の太陽探す旅に出る
宇宙塵されどどっこい生きている
「自 由 吟」 内山 敏子
夕焼け小焼け明日をつなぐ寺の鐘 浜 松
立ち読みで消費税ぶん読んでます
今もある子等と一緒に見た星座
太い文字人柄示す書道展
「水を乞う」 井口 薫
水揚げはバラに負けないカスミ草 袋 井
灌水をしても関数甦生せず
加齢渇水 鏡の中の水位計
水乞いのナスはムンクの顔をして
「 殻 」 安田 豊子
適当にできない質で損ばかり 浜 松
空元気出して足腰騙してる
惚けぬうち覗いてみたい自我の壷
古い殻脱げずに余生黄昏る
「秋 の 彩」 小林 ふく子
命ある星哀しげに光ってる 袋 井
夕焼けをむさぼり食って強くなる
イケメンのカカシ知ってる雀たち
菊人形吐息がもれる夜の闇
「慈 雨」 芹沢 穂々美
伸びようとしている夢を切る悪魔 沼 津
慈雨という恵みで生きて旬を知る
愛情過多ナスとキュウリが曲がり出す
寝ずの番してる自販機得意顔
「やり直す」 川口 亘
馴染めない事になったも己の非 藤 枝
まだ先を見据えて生きるちから貯め
渦の中いると溺れる恐さ知る
持ち前の明るさだけは見る余裕
「意 識」 岡村 廣司
眼が覚める度に赤貧意識する 焼 津
無意識な発言ひとを傷つける
殺人の罪の意識が薄い世だ
意識して出来りゃしないさ千鳥足
「夏 の 夢」 畔柳 晴康
夢だけを想い抱かせる下駄浴衣 浜 松
冗談をまともに取られ面食らう
想いだけ今日も終わりと書く日記
短冊に書いた願いは未だ夢
「長 寿」 新貝 里々子
ホラまたね死後の話はあっちむいてポイ 袋 井
かくれんぼさがすひと無くそれっきり
おばあさんばかりが集う青春の乱
満天の遠い昔の空を恋い
「聴診器余ン句」 西垣 博司
聴診器しっかり空気読んでいる 静 岡
医者の首傾げさせてる聴診器
疑ぐって聞き耳立てる聴診器
人間のウラと表を聴診器
「幸 せ」 酒井 可福
幸せの法則追って半世紀 北九州
幸せが呼ぶ方向に顔を向け
神様も人生だっておもしろい
風邪ひかぬバカで幸せ感じ取る
「自 由 吟」 川村 美智代
老いてきて忘れることを許し合い 静 岡
いい加減こけたくなった信号機
かあさんの歌を泣かせる異国歌手
放置死の二児に列島涙する
「サ イ ン」 提坂 まさえ
齟齬一つ私乾燥注意報 静 岡
もういいよ箱入りメロン返事する
非常ベル押しておいたと我が財布
じゃあまたね点滅し出す黄信号
「 涙 」 石上 俊枝
許される泪の盾を持つ女 静 岡
泣いている天から見たい友の価値
ホスピスの涙は枕ふいてくれ
どっぷりと涙腺弱くドラマ中
「力 む」 薗田 獏沓
北のアナ大本営の声で吠え 川根本町
魂胆がありローンと教育費
招かざる客が上座を独占し
肩書きを表に主流派煽動者
「自 由 吟」 飯塚 すみと
慈しむ気持ちでメダカ五匹買う 静 岡
いまいまし愛するチームが3タテを
テレビ消し独り善がりの風呂つかる
おわら盆こころやすらぐ人が好き
「再 び」 鈴木 千代見
リハビリへ皆の笑顔に会いたくて 浜 松
再会の約束やっと夢で会う
バッタリと会う平成でいられない
リサイクルこれが牛乳パックとは
「甲 子 園」 尾崎 好子
クーラーは止めて見ようか甲子園 藤 枝
好プレー目頭熱く鼻がつん
飯よりも好きが記憶の不正確
ラーメンか回転寿司を賭けてみる
「雑 詠」 林 二三子
風鈴の音色気温も下がりそう 富士宮
運動会祝砲と風船が空に
イベントがバルーンアートで盛り上がる
爪色を変えてうきうきショッピング
「 秋 」 増田 信一
秋になるのに収穫が無く冬に 焼 津
秋風を送り裏から様子見る
春よりも秋が好きだが太るのは
秋の空見上げていると空っぽに
「誕 生 日」 谷口 さとみ
厳かに五十路に混ぜてもらいます 伊 豆
しまむらがだんだん痛くなる五十路
五十路からもいちど私生きてみる
赤ワイン飲み頃にして肉を待つ
「秋 刀 魚」 森下 居久美
暑すぎた夏に高騰する秋刀魚 掛 川
お隣に秋刀魚のけむりお裾分け
初物の秋刀魚を食べる日の笑顔
塩焼きが一番だなとハイボール
「告 白」 稲森 ユタカ
いとおしいあなたに渡す桃の花 静 岡
赤面し鼻までほてる君がいる
伝えたい気持ち心にそっと置く
月明かり照らす海辺でⅠ LOVE YOU
「秋が恋しい」 小野 修市
恋人のように待ってる秋の空 静 岡
熱帯夜それでも妻の横で寝る
太陽が手強い九月まだ暑い
落ち着いた心になりたい秋はいつ
「都市対抗野球」 横田 輪加造
応援を誘惑される食事券 東 京
ノンプロのビールがプロ並に高い
都市対抗金のあるとこだけ残り
躍起にならないと野球っていいな
「芸術の秋」 松田 夕介
独り身の雲助だけどケセラセラ 牧の原
鈴虫の音色にのせたセレナーデ
まんまるの月に捧げたラプソディー
月影をバックにワルツ舞う二人
「野 菜」 真理 猫子
薩摩芋 だって私を振ったでしょ? 岡 崎
モンパルナス通りに落ちているトマト
にんじんを化粧ポーチに詰めてゆく
いろっぽい声で売れてく鷹の爪
「宿 帳」 池田 茂瑠
甘い語に乗らぬと決めた筈ですが 静 岡
私の干潟を痩せた蟹が這う
宿帳で一度あなたの妻になる
重い理を通す軽めな腰なので
「自 由 吟」 薮﨑 千恵子
焦ってもどうにもならぬ風の向き 焼 津
摩擦から逃げて弱虫さらけ出す
脇役でいれば仮面も要りません
裏表なく歩いてる一本気
「キヨコの夏」 山口 兄六
ラベンダー忘れられんばかりの風 足 利
カーレディオ 二人のレトロそっと撫で
アルパカはそっとぬいぐるみのままで
キヨコって呼ばれる程は清くない
「ひとりごと」 勝又 恭子
心だけ隣同士でする読書 三 島
なぐさめの言葉欲しくて愚痴ひとつ
約束は叶うと思う帰り道
流されず染まらず今日も自分色
「カ ゼ」 中田 尚
カゼの菌しっかりもらう家族愛 浜 松
うつされて治った方に怒られる
マスクなど無駄な抵抗してもムリ
ウイルスが長居を決めているらしい
「笑わば笑え」 永田 のぶ男
夫婦とも墓参りせぬ仲のよさ 静 岡
問診で答えにならぬ返事聞く
テレビならまだ生き返るタイミング
良薬も毒ともなるか試験台
「海 の 色」 中野 三根子
海の青 空の青にも染まりたい 静 岡
ヨットにも白い雲にも青い海
海の色きっとあの日と同じ青
父と見たあの空の色海の色
「模 様」 多田 幹江
侮れぬ模様眺めの第三者 静 岡
わが道を行く豹柄とすれ違う
百均の傘に任せる雨模様
遠来のカツオ小粋な縞を着て
「な ら ば」 石田 竹水
多少でも世の為ならば身を削る 静 岡
ささくれたジョークは耳に引っ掛かる
素っ気無い言葉も温い国訛
動くまい蹴られた石が意地を見せ
「自 由 吟」 長澤 アキラ
貧乏も笑っていれば分からない 静 岡
禁酒禁煙ゆびが覚えている形
字余りの言葉未完の夢である
遠い日の風はもんぺの母と来る
「 嘘 」 川村 洋未
百均で飾った恋が背伸びする 静 岡
泡も出て色もビールの嘘を飲む
まだ化粧していないから高笑い
バーチャルの世界で今日もデートする
「自 由 吟」 佐野 由利子
天高し意地も頑固も捨ててみる 静 岡
占いじゃ大器晩成だったはず
横のもの縦にしだした定年後
突然の方向指示にうろたえる
「風 物 詩」 望月 弘
九条も九段も夏の風物詩 静 岡
ヒロシマを覗き見をした星条旗
戸籍簿で性善説が蹴躓く
百日紅なんじゃもんじゃと咲きにくる
「1980の夏」 加藤 鰹
尖閣は日本 議論の余地はない 静 岡
肉食女子「やさしいひとが好き」だとさ
爪まるく切るグウの音も出ない夜
やさしさに触れコスモスの揺れ止まず
顧 問 吟
「自 由 吟」 高瀬 輝男
九条の議論発泡酒の苦さ 焼 津
後期高齢時々花火打ち上げる
文化かな延命器具に武装され
み仏の指ならどんな絵を画くか
「自 由 吟」 柳沢 平四朗
リストラの風へ桶屋も膝を抱く 静 岡
残照のネガへ孤高が蹴つまづく
ひと言がのどに絡んでいる同居
過去ばかり綺麗につまむ夫婦箸