霜石コンフィデンシャル103   高 瀬 霜 石

 

「白米狂詩曲③(―味噌汁よ永遠にー)」

前号で、死ぬまで納豆が食えなくなったと告白した。

病名は《心房細動》。この名前を聞くと、大抵の人は、ご愁傷様といった顔で僕を見る。高円宮様の突然死を思い出すからだろう。でも、アッチは《心室細動》という。コッチとはチト違う名前である。

大好物の豆腐や枝豆が食えなくなったら大変だけど、納豆ぐらいでガタガタ騒いでは男がすたる。

「雁が鳴いて南の空に飛んで行かあ。可愛い子分の納豆と別れ別れになる門出だあ。焼き干しと昆布で鍛えし出し汁に、四季折々の具を詰め込んだ熱々の味噌汁。オレにゃあショーゲー、テメエというツエー味方があったのだあ」と、つい国定忠治ばりに見栄を切っていた。

ご飯と味噌汁。この2人の関係は、とても魅力的である。無二の親友だが、時にはライバルでもあり、お互いをしっかり認め、かつ高め合う存在。

例えば長嶋と王、子規と漱石、李白と杜甫とかいるでしょ。中でも一番それらしいのが、近藤勇と土方歳三の関係である。お互い「近藤さん」「歳さん」と親しみを込めて呼び合う仲だが、西郷隆盛と桐野利秋(中村半次郎)のように親分子分のズルズルベッタリでは決してなく、付かず離れずの同盟関係というか。いざとなると、行動を別にするいさぎよさがある。

カレーライスに味噌汁は当たり前。パンに味噌汁も驚くに値しないらしい。味噌汁歳三は、白米勇と袂を分かち、西洋の輩とタッグを組んだりもするのだ。

先日、丸々一日の心電図をとるために、身体に器械を二十四時間付けて過ごした。心臓は、1秒間に約1回動く。2秒以上止まると、めまいがしたり、倒れたりもするらしい。長く止まるのは大体がくつろいでいる時。つまり寝ている時だから、本人は気づかないという。

「ウーン。高瀬さんは、朝の8時に、2秒以上、2回止まっていますねえ」

「エッ?そうですか。そんなに寝坊しましたか」

「何を言ってるのですか。高瀬さんは朝7時に起きています。就寝中ではないのです。その為に二十四時間の行動表を書いてもらっているのですからね。クルマの運転には、くれぐれも気をつけて下さい」だと。

朝の8時。僕は丁度、味噌汁を飲んでいた。あまりにあずましく、自分では知らないまま、一瞬死んでいたのだなあ。味噌汁、万歳。新撰組、万歳。